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ツタのある外壁も分類は大変

 幼い頃、よく母と車で近くの和菓子屋に行っていました。と言っても、私が店に入れば、あれが欲しいこれが欲しいとねだりまくったり、意味不明なことを意味不明な声量で叫んだりするため、いつも車内でお留守番をしていました。10分もすれば母は帰ってきましたが、子供が車内でひとりいるには10分は長い。場合が場合なら暇に任せてお尻でクラクションを押しかねない状況ではありましたが、私は大人しくしていました。

 母を待つ間、私は和菓子屋の駐車場から見える1軒の建物をいつも眺めていました。その建物は三角の屋根をしていて、頂点にはブロンズの十字架が掲げられていました。要は教会です。初めて見る教会の雰囲気が印象深かったのは事実ですが、それよりも気になったのが植物でした。教会の外壁全体に何らかの植物がからまり、屋根の辺りまで葉をつけて何やらもっさりとしているんです。

 教会を見るのは初めてでしたが、葉に包まれた家も初めてだった私は、いろいろ気になってしまいました。どうすれば家があんなに葉っぱでモサモサなるのか。意図的にやっているのか、それとも勝手になってしまうのか。勝手になるのなら、どうして我が家は葉っぱモサモサハウスにならないのか。

 母に聞けばいいものを、母が帰ってくるとそんな疑問などスッカリ忘れてしまうんです。そして、母と共に和菓子屋の駐車場へ行くとまた思い出す。ですから、葉っぱモサモサハウスに対する疑問は長年、自分の中にしまいこんでいました。

 大人になるにつれ、世の中にはツタという植物があって、そいつは壁でも平気でくっついて上へ上へと伸びていくのだと知りました。オシャレや断熱効果のため意図的にツタを絡ませる人もいれば、勝手に生えて勝手にモサモサさせてしまう人もいるのだそう。そして、ツタは壁に根を食いこませて伸びるため外壁などが傷みやすく、お金をかけて除去している人もいるようです。私の家にツタがないのは両親がツタを生やそうとしなかったからなのでしょう。

 子供の頃の疑問はだいぶ解けましたが、まだ気になる点が残っています。あれから私もツタに包まれた家を何軒も見て参りました。そのたびに、「この家は意図してツタを絡まらせているのだろうか」と考えてみるんですが、まあ判断のつかない家が多いんです。綺麗にツタが外壁を包んでいる家だなあと思ったら実はずっと空き家だったなんてこともありますし、逆に枯れたツタが絡まりすぎて怪鳥の巣みたいになっている家だったとしても、毎日のように部屋の明かりは灯っていて、何なら室内は整然としていたりするんです。

 人は分類をします。いろんなものを、様々な特徴で分けていく行為ですね。簡単なように思えて、これが難しいんです。理由はいろいろありますが、「分類していると、どっちでもないものが出てくる」というのが大きい。例えば、河原の石を色別に分類していますと、そのうち必ず何とも言えない色の石が出てくるんです。黒と灰色の間みたいな色だったり、ベースは黒いんだけど白い斑が点々としているなんてパターンも出てくる。

 外壁がツタでモサモサになってる住宅も同様なのだといつからか思うようになりました。生やそうとして生やしているのか、そのつもりがなかったのに勝手に生えてきたのか。そのどちらかに二分できるほどツタ住宅の世界は単純ではありません。ツタが生えている家の人に聞いて回れば、最初は意図的にツタを生やしていたけど徐々にコントロールできなくなって混沌としてきたお宅もあれば、最初こそ勝手に生えてきたツタだったけどちょうどいいからとうまいこと剪定していい感じのモサモサ具合を維持しているお宅もあるに違いない。何なら私が知らないだけで、もっと別のパターンだっていくつも存在しているかもしれない。

 もし、その別パターンというものがあるならば、ツタで巻かれた家に住んでいない私には想像もつかないようなものに違いありません。一体どんな経緯によって外壁がモサモサしだしたのか、とても気になります。同時に、他人の家のツタを何をそんなに長年気にしているのかという自己批判的な考えもございまして、知りたい気持ちとせめぎ合っている次第です。

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