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「神様のお陰」は万能じゃない

 「神様のお陰」という考え方があると思うんです。何か幸運だと感じられる出来事に遭遇した時、その原因を神様に求めるわけですね。仮に自分が頑張っただけだったとしても、神様のお陰にすることで調子に乗らないよう謙虚さを維持する、そんな役割があるんじゃないかと勝手に考えております。

 万能な考え方なんてまず存在しませんから、常に謙虚であればいいとは限りません。謙遜しすぎて相手を苛立たせてしまう時も残念ながらある。ただ、傲慢になっていいことはまずありませんから、神様のお陰は傲慢の予防としてはなかなかよくできた考え方なんだと思います。ただ、先ほども書きました通り、万能な考えなんてまず存在しないんです。それは、「神様のお陰」であっても例外ではありません。

 私が花粉症になった時の話なんかがまさにそうです。兆候はあったんです。なぜか毎年2月から3月頃になると目がかゆくなる。涙がよく出て瞼もかぶれたようになる。眼科と皮膚科のダブル受診です。眼科ではアレルギー性結膜炎と言われ、皮膚科でも塗り薬を処方されたんですが、こうも言われました。「花粉症かもしれませんね」。

 いよいよ来たかと思いました。皮膚科医は「マスクをつけて、なるべく花粉を吸いこまないようにしたほうがいいですよ」とも言いました。しかし、私は首から上に何かつけるのがどうも好きじゃないんです。暑い日にはすぐ蒸れて汗疹ができますし、寒い日にはこすれて肌がカサカサになる。マスクもそうに違いないと思い、花粉をブロックするスプレーを顔に吹きつけるだけで凌ごうとしていました。まあ、対策としては不十分だったんでしょう。何なら、スプレーを使い忘れたことも多々あります。だから、とうとうクシャミ&鼻水という花粉症のツートップ症状が現れ始めました。

 マスク生活待ったなしになったわけなんですけれども、マスク慣れしていない私はまだまだ二の足を踏むわけです。いやいや鼻ズルズルさせてんだからやりなさいよと今なら言えるんですが、マスクをつけるとみんなから変に思われるんじゃないかとか、思春期並の自意識過剰が暴走してマスク着用に至らないんです。

 その頃、中国から気になるニュースがちょこちょこ飛んでくるようになりました。なんでも強力な風邪みたいな症状になる変なウイルスが蔓延し始めていると。あとは皆さんご存じの通り、全人類が慌てたり戸惑ったりしているうちにウイルスは瞬く間に世界中へ広がり、誰もがマスクをする時代に突入したんです。マスクに難色を示していた私も命にかかわるとなれば話は別です。速攻でマスクをつけるようになりまして、数年間のマスク生活により、すっかりマスクに慣れてしまいました。実際にやってみたら、もちろん面倒なところはありますけれども、特に汗疹になるわけでもありませんし、冬場はむしろ暖かいですし、意外といいところもありました。つまり、例のウイルスが私をマスク生活へスムーズに導いてくれたことになります。

 私がマスクをつけるようになったのは、偶然と言えば偶然の結果ではあるんです。決断できない私を、環境の変化が後押ししてくれたわけですから。ただ、それを「神様のお陰」と言ってしまうと、「私にマスクをつけさせるために何を起こしてくれてるんすか神様」となってしまうんです。「その目的にその手段はちょっとないでしょう」と。指先が寒いからと言って世界を火の海にするようなものです。

 神様も万能ではないということでしょう。いや、逆に万能だから大変なことが起きるのか。

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