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かさぶたの力
子供の頃、暇すぎて自分のかさぶたばかり見ていた時があります。いくら暇にしたってもっと他にすることがあったと思うんですけれども、とにかくかさぶたに夢中だったんです。
「傷が治る」というのが単純に不思議でした。自分が傷を治すつもりだろうがなかろうが、すりむいて血が出ていたところが勝手に治っていくんです。傷が治ったことを誇るでもなく、かさぶたはいつの間にかはがれてどこかへいなくなっていく。
そんな治りかけているかさぶたを、ひっかいてはがすことがよくありました。治りかけの傷は往々にしてかゆくなるんで、気づくとかいてはがしているんです。はがしたらどうなるんだろうと興味本位にはがしてしまうこともありました。何しろ暇だったので。
ちょっとした痛みと出血を見て、ようやくしまったと思うんです。そんな傷もやがて血が止まり、かさぶたになる。そして、また何も言わずに少しずつ傷を治していきます。それなのに、またアクシデントでかさぶたをはがしてしまう。
すごいのは、かさぶたができてはがれてを繰り返しているうちに、何だかんだ傷が徐々に治っていくことです。かさぶたができるたびに小さくなっていくのが分かるんです。そして、以前より一回り小さくなったかさぶたの周囲には、治ったばかりの新しい皮膚ができあがっている。もちろん、かさぶたに負けないよう傷を広げようと頑張れば傷はいつまでも治らないどころか広がっていくとは思うんですけれども、そんな状況はかなり特殊ですし、そんな特殊な状況でもかさぶたはできるし、傷は少しずつ治ろうとしていることでしょう。
かさぶたをジッと見まくっているうち、暇すぎていろいろ考えてしまいました。何かするとアクシデントがしばしば起きる。それでも、かさぶたは黙って静かに傷を治してゆく。傷が治る過程は本当にゆっくりで、徐々に少しずつ進んで行くわけですが、アクシデントにめげるでもなく、そのうちにいつの間にか傷は治ってしまう。
なかなかうまくいかない時には淡々と傷を治すかたぶたを思い出しますだなんて、そんな道徳的な話にはなりませんけれども、どれだけしんどかろうと自暴自棄になろうと黙って傷を治そうとする力が人に備わっているのは事実の用です。
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