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たまたま流行に乗ったとしても結局は一瞬で遠ざかる

 流行が見えないんです。見えないから、流行の波には滅多に乗れません。右サイドからデカい流行の波がバシャーンバシャーンぶつかって来ても気づかずスタスタ歩いてゆく。それを繰り返すと私の半生が出来上がります。

 それでも、稀に流行の波に乗っかる場合もあります。意図して乗っかるなんて器用なことはしていません。相変わらず流行は見えていないけど、たまたま波の上を歩いていただけの話です。だから、流行に乗れたとしても一瞬で、すぐに波から外れてゆきます。

 音楽もそうでした。私が学生の頃、もう日本に幾度となく訪れてきたバンドブームが再来していました。当時いろんな人気バンドが楽曲を発表しては、チャートを賑わせておりました。

 もともと音楽は好きでしたから、よさそうな曲を知ればそれを買って聴いていました。その曲がたまたま有名だと友人知人とも話が弾みます。ちょっとバンドやってみようよなんて言われ、小遣いはたいてギターなんか買っちゃったりする。

 では、どうやって流行の波から外れるのか。その流れは大体決まっています。ひとつの物事を追求し、専門化してゆくと世間の流れから外れてゆくんです。

 その日も音楽の話をしていると、友人が「インディーズもいいよ」と言ってきました。ここでは牧田君としておきますけれども、牧田君が言うには世間に名の知れたバンドだけじゃなく、小さなライブハウスで活動しているバンドもいい曲を出しているらしいんです。しかし、牧田君の「いい曲」がどうもおかしいんです。

「歌詞がヤバすぎて曲にピー音が入っている」

 光速で流行から離れていった瞬間でございます。実際に聞いてみると、確かに歌の途中でピーと入っている。文脈から判断しても、明らかに放送禁止用語なんだろうなと推測できます。ただ、楽曲自体はバリバリのロックで格好いいため、突然ピーと入るとその落差でなんか笑えてしまうんです。前例のないことに挑戦する姿勢は大切ですけれども、これはアーティストの意図した効果が出ているのか、今になって考えると疑問です。

 そんなレア曲を教えてもらったからには、私も牧田君に何か紹介したくなるわけです。見つけてきたのは、歌詞カードに「内容がヤバいので歌詞を載せられませんでした」みたいな注意書きがある歌でした。早速、牧田君に紹介すると、牧田君が注目したのは曲のパッケージでした。確かに、牧田君の言われた通り、パッケージの隅にこんなラベルがついていたんです。

 これは「ペアレンタル・アドバイザリー」と呼ばれ、「未成年者にはふさわしくない」と判断された楽曲につけられるようです。どういうものが「ふさわしくない」と判断されるかと申しますと、銃器や拷問などのバイオレンス系、煙草・お酒・お薬のケミカル系、ピンクな世界でお馴染み生殖系など、子供にふさわしくないとされるものでは王道の面々です。主にアメリカの音楽が対象になっているようで、牧田君は「邦楽でこのラベルがついてるのは珍しいな」と感心していました。

 牧田君にそんなことを言われて悦になった私は、もっと変なものを探す方に舵を切りました。最初から見えてない流行は更に遠のきます。しまいには、何度聴いても何て歌っているか分からないから歌詞カードを見ると、歌詞カードにも意味不明な文字の羅列しか書かれていなくて結局何て歌ってるか分からない、という曲を牧田君に紹介していました。

 昨年末、紅白歌合戦で新しい学校のリーダーズの「オトナブルー」を見ていた母は、「随分と過激な歌詞だねえ」と呟いていましたが、何年も前に自分の息子がやれバイオレンスだケミカルだ生殖だと、もっと過激な歌詞の曲を聴きまくっていたどころか、過激を求めすぎて意味不明な境地に迷い込んでいたことはスッカリ忘れているようです。別に思い出してほしいことでもないので、何よりでした。

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