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販売所御殿

 東京に出てビックリしたことのひとつに「個人でやってる無人販売所が意外とある」というものがあります。自分のところで収穫した農作物を、自分の敷地内で販売する施設ですね。棚に農作物が並べられ、手書きの値札がついていて、備えつけの箱にお金を入れて作物を持って行くシステムです。私の地元の田舎でも時々見かけました。

 田舎ならば農家もたくさんいますし、自宅で収穫したものを自宅で販売する方もいらっしゃるでしょう。東京でも郊外に行けば農業をされている方がいらっしゃるんですけれども、そういう方の販売所設置率が地元に比べて明らかに高いんです。住民が多いから商売として普通に成り立つんでしょう。確かに、野菜を買ってる様子を当たり前のように見かけますし、売り切れるなんて非常によくあることです。

 ただ、やっぱり地方のほうが規模は大きく、本格的という傾向があるようです。まあ、当たり前ですよね。広い土地でガッツリ農業をするなら、やっぱり地方です。ガッツリ農業をしていれば、大きな販売所でババンと作物を売ることができる。

 実家の両親が懇意にしている梨農家も、自宅に有人の販売所を作っていました。周囲は農家ばかりで、畑や果樹園が広がる見通しのいい場所です。春になると肥やしの強烈なにおいがするため、窓を開けたまま車を運転すると大変なことになります。

 その梨農家の販売所は倉庫を改造して作られたこともあって広く、普通にお店みたいな感じでした。当然、商品の梨がズラッと並んでいる。隣にはご自宅も見えますし、その向こうには広大な土地に大量の梨を栽培しているのが確認できる。そこまで本格的に作っているわけですから、当然ながらおいしい梨なんです。甘くてみずみずしい。いくらでも食べられるんじゃないかと錯覚してしまうくらいです。両親は年に数回はその販売所で梨を買っていましたし、たまに私もその買い物について行ってました。

 だから変化に気づいたんです。「あれ、販売所が綺麗になってんな」と。私が両親にそう指摘すると母は「そう言えばそうだねえ」とのん気に言う。続いて変わったのが、販売所の隣にあるご自宅です。明らかに新築の近代的な戸建てになっている。しかも、以前より一回り大きい。更には、ご自宅の前に大きな車庫ができたり、新たな倉庫ができたりと、目覚ましい変化です。私がそれを指摘するたび、母は「やっぱりおいしいからみんな買うんだねえ」とのんびり感心し、父も「梨御殿だな」とよく分からない例えをしていました。

 私もいろんな販売所を拝見してきましたけれども、ここまで景気のいい変化を見せたところは他にございません。梨ってすごいんだなあと、食べるたび思うようになりました。

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