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鉄塔に問題を感じる人

 実家は田舎なので、窓から山が見えるんです。山には鉄塔が並んでいて、高圧電線を背負っている。航空障害灯のお陰で、夜でも赤い光が窓から確認でき、どこに鉄塔があるのかすぐ判別できます。

 そんな景色で生まれ育って来たんですが、鉄塔の足元まで行った経験は数えるほどしかありません。鉄塔周辺は雑木林しかなく、あとはあっても獣道半歩手前の林道しかありません。わざわざ行く用事がないんです。行ったとて、「鉄塔高いなあ」と思うしかやることがない。

 でも、鉄塔自体はほんの少しだけ興味がございまして、数年に1度くらいのペースで軽く検索していたんです。そうしたら、山にあろうが谷にあろうが、行ける鉄塔に片っ端から行くという、すごいニッチな趣味をお持ちの方のブログがヒットしたんです。見たら、土日祝日や有休を利用して日本全国津々浦々の鉄塔に行きまして、そこへ辿り着くまでに何をしたのかとか、どういう鉄塔なのかとか、そういうことを画像と一緒にブログへ載せている。鉄塔を除けば普通の旅行記なんです。鉄塔にまみれていますが。

 このブロガー、当たり前のように私の実家の窓から見える鉄塔にも来ていました。鉄塔ブログなんですから当然と言えば当然なんでしょうけれども、でも、私の実家は何の変哲もない片田舎で、鉄塔の周囲にも本当に大したものがないんです。特徴的な人工物があるわけでもありませんし、人類の到達を阻むような峡谷のあるわけでもない。ブロガーはそんな特徴らしい特徴のない鉄塔にも訪れていますし、どういう目的でいつ頃に建てられたのかみたいな事前調査もしている。世の中、いろんな趣味があるものだと、改めて思いました。

 しかもです。そのブロガーは私の実家の窓から見える鉄塔の記事で憤っていたんです。その鉄塔が建てられたのは高度成長期の時代でございまして、今ほど自然環境へ配慮した建設がされていませんでした。だから、周囲の自然を押し退けるような、強引な建設がされていると、そのブロガーは現地に行って一目で見抜いたんです。「当時の電力業界は云々」とブロガーはいろいろ問題提起されていらっしゃいました。

 しかし、その記事のコメントはゼロ件でした。よく見たら、他の記事もゼロ件です。というか、ブログにアクセス数が載っていたんですが、その日のアクセスは2のみでした。1が私なので、下手したら管理人しか見ていない日が続いている可能性もあります。

 ニュースを見れば世界は問題だらけでございます。大きな問題になりますと、多くの人々が考え、主張し、議論している。でも、鉄塔ブロガーののように、問題提起はしたものの、なかなか人の目に留まらない主張もたくさんあるんだなあと思いました。

 そう考えると、私だって子供の頃は、両親にゲーム機をねだっても買ってもらえず、自分の貯金で買いたいと言っても許可して貰えなかったことは、非常に大きな問題と感じておりましたけれども、その問題は世間からは見向きもされませんでした。ブロガーからしてみれば「何と比べてんだ」って話でしょうけれども、一言で問題と言っても、その認知度はそれぞれ大きく異なっているものなのだなあと思った次第です。

 それにしてもです。いま思い返してみてもトガったブログでした。今は削除されてしまったのか、いくら検索しても出てきません。これだけ出ないと、幻でもみていたんじゃないかと思ってしまいます。

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