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女性芸人の台頭と下ネタの普遍性について

 その昔、女性の下ネタはエグいというような話を聞きました。じゃあ男性のはエグくないのかとか、そもそもどういう下ネタがエグいのかとか、自分なりにいろいろ見聞きして、今のところは次のような結論に落ち着いています。「エグい下ネタとされるものはそもそもネタにすらなっておらず、そういうことを言って事故を起こすのは誰にでもあり得ることである」。

 「下ネタ」の定義は人それぞれなところがありますけれども、「ネタ」と言っているからには笑える余地があるものを指しているはずです。エグい下ネタと言われているものは、単にそういう話をしているにとどまり、そこに笑いがない場合が大半です。つまり、正確には下ネタではない。

 もちろん、本人としては笑いを入れてたつもりなんでしょうけど、こういうのは相手の反応が全てですから、笑ってもらえなかったのならば下ネタに至らなかったことになります。そして、そういう話はご存じ通り扱いが難しい。どの性別の人がどの性別の人に言っても事故ったらハラスメント一直線になる危険性が高いわけです。

 一方で笑いを取れれば「下ネタ」として成立するわけです。お笑いのプロである芸人ならば、危険なテーマでもうまいことやれる確率がグッと上がるでしょう。

 かつて女性の芸人は少ないと言われていました。今でも多いとは言えませんが、一時期に比べればだいぶ増えてきました。数が増えれば、能力のある人も単純に増えてきますし、生き残りを賭けて自分なりに差別化を図るようになる。そのためか下ネタをキッチリとこなせる女性の芸人も目立つようになってきました。自身の立場をうまくいかし、男性ではやりづらいようなネタを見つけてくる人も珍しくなくなってきています。

 例えば、あぁ~しらきさんです。最近は「男かな?女かな?」ネタの格好で登場することが多いようですが、2014年には別のネタによりハリウッドザコシショウさんの動画に登場しています。

 いわゆる下の口がしゃべるようになるというコントです。地上波での披露は厳しいでしょうが、アウトな表現をうまく避けつつも何が起きているのか分かるような言動をすることにより、少なくともライブでは披露ができ、ウケも取れています。何だったら、現在に至るまで普通にYouTubeで公開されている。

 男性ではネタとして成立させるのが非常に難しいコントである点は注目に値します。その辺りもちゃんと考えられたネタであると推察しています。

 地上波で放送できるようにネタを調節した方もいます。男女コンビではありますが、今年の「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」の「山-1グランプリ」でネタを披露した下町ミュンスターです。公式YouTubeには完全版のネタ動画が公開されていました。

 こちらのネタも生々しくならないようセリフや動作に気を遣っているのが見て取れます。下ネタが成立しやすい状況のひとつとして「卑猥さや下品さよりもバカバカしさが上回る」というものがありますけれども、このネタもまたその状況に落としこんだものになっています。

 具体的には女性の下着の見せ方を敢えて変な格好にしている点が分かりやすいかと存じます。中盤のM字V字はもちろんなんですが、最初に見せる時からちょっとバカバカしい格好にしているんです。また、男性の態度も観客の不快感をなるべく削ぎ、なおかつ見たい気持ちだけは残すという難しいところを狙っている点も無視できないでしょう。

 ラストはAマッソです。こちらはABEMAで配信されている「チャンスの時間」で披露されたネタであり、YouTubeでも公開されているものです。

 一見するとなんで削除されないのか不思議で仕方がない内容のネタなんですが、セリフを細かくチェックすると分かる通り、直接的な言葉がほぼゼロなんです。「本来はそんな感じの意味の言葉じゃないんだけど、使い方のせいで明らかにそんな感じの意味になってる」という言葉のオンパレードとも言えます。セリフよりも際どいのは動作なんですけれども、そこも直接的な表現と分かる人は分かるギリギリのところを狙ったものになっています。

 何より、テーマがあれなだけでネタとしてしっかりしている点が大きい。冒頭の掴みをライトにしていきなり強めなボケで観客の興味をグッと引きつけるだけでなく、意外性のある展開が最後まで観客を牽引していきます。一つひとつの表情もうまく使い分けていて、細かな設定も正確に織り込んである。もともと実力派として評価されてきたAマッソならではとも言えます。

 女性の芸人が増えてくれば、能力のある人は更に増えてくるでしょうし、下ネタをうまく使いこなす人だって当然出てくるでしょう。現在はまだ過渡期のせいか、女性の芸人がメジャーになっても、あまり下ネタを駆使する仕事が回っていないように見受けられます。そもそもそんな仕事が少ないだけかもしれませんが。

 ネタには披露する人の特徴を活かしたものが多く見られます。それは当然だと思います。ですから、「この性別ならでは」というネタはこれからも出てくるとは思います。ただ、下ネタは別にどの性別だからできるとかできないとか、そういう話ではないのでしょう。扱いが難しいテーマである点も性別関係ありません。状況をうまく読んで、きっちりとしたネタを仕上げて披露する。そうすればきっと笑いが取れると私は勝手に考えています。

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