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煙草と金属バット

 煙草を吸ったことがありません。吸おうと思ったこともありません。居酒屋とかで同席者が吸っても気にならないので、毛嫌いしているわけでもありません。単純に大した興味も湧かずにここまで来た。そんな感じです。

 もちろん、煙草自体は存じ上げていますし、銘柄もおぼろげに覚えているものがいくつかあります。友人や親族にも喫煙者が普通にいました。そんな人に煙草の良さとか、吸ったらどんな感じになるのかとか、聞いた時もありました。でも、自分は吸うに至りませんでした。

 ただ、喫煙者が羨ましく見える場面があるにはあるんです。私が煙草を吸っても全然問題ない年齢になってだいぶ経ったある日、実家に帰省をすると偶然、叔父もまた実家に帰省していました。

「久しぶりだな、5年ぶりくらいか?」

 叔父は相変わらずのんびりした口調で挨拶をしてきました。しかし、お互い様とは言え見た目は前に会った時よりやっぱり少し老けていましたし、身体もだいぶ弱ってきたせいか、あれほど好きだった煙草も吸わなくなっていたそうです。

「叔父さん、どうして帰って来たんすか」
「たまには親父の墓参りにいかんとな」

 これまでも叔父はフラッとひとりで現れては、実家に泊まって墓参りをして帰っていく時がありましたから、私としては不思議にも思いませんでした。叔父には叔父の、人生を歩む上で適したリズムがあり、それに沿って生きる一環として突然の墓参りがあるのだなと、勝手に解釈しています。

 せっかくだからと私も叔父や実家の家族と共に祖父の墓参りをしました。墓やその周辺を掃除し、花を飾り、お酒を備えます。線香に火をつけたところで、叔父は思い出したようです。

「今日くらいはいいか」

 叔父はポツリと呟くとポケットから煙草を取り出し、マッチで火をつけました。そのまま数回吸いまして、ため息をつくように口からフッと煙を吐き出します。そして、火のついた煙草をそのまま祖父のお墓に供えました。

 私は煙草に大した興味を抱かず今まで生きてきました。喫煙者は嫌でもなければ羨ましくもない。ただ、祖父を思い出しながら火のついた煙草をお墓に供える叔父の姿を見た時だけは喫煙者が少しだけ羨ましくなります。

 と思ってたんですが、最近になって喫煙者が少しだけ羨ましくなる動画と出会ったんです。

 金属バットのふたりが煙草好きだとは知っていましたし、そっち系の企画をやっているのも拝見してきましたけれども、なぜかこの動画だけ無茶苦茶楽しそうに見えるんです。ああこれはやると面白いだろうなあと、1本も吸ったことないのに思いました。というわけで、今日もこの動画を見て参りますので、では。

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