宇宙人の素人

 諸事情で細かな経緯を略しているので奇妙に思われるかもしれませんが、宇宙人の絵を描くイベントに参加したんです。カルトじみた怪しい団体のイベントではなく、ちゃんとした大学のちゃんとした研究機関でおこなわれたちゃんとしたイベントです。こう書くと嘘くさいですが、本当にちゃんとしてました。運営側はガチガチの研究者ですし、何ならいろんな惑星の基礎データを見せて「このデータを見て自由に宇宙の生命体を描いてみてください」なんておっしゃるんです。当然、参加者は誰でもよくて、子供からご年配の方までが、楽しんだり悩んだりしながら描いている。

 残念ながら、常日頃から宇宙人の絵を描きたくて仕方がないタイプの人間ではない私は、描いてくれと言われてもなかなかすぐに宇宙人を描けません。しかし、その日は宇宙人を描く以外にもいろいろと用事がございましたので、のんびりと地球外生命体に想いを馳せているわけにもいかない。サッサと宇宙人ミッションをこなして次へ進む必要がありました。

 用意されたペンの中からそれっぽい色を選びますと、まずは幾何学的な形を描き、そうかと思えばランダムでグニャグニャしたものを描いてみました。要は適当です。描けば描くほど絵が生命体から遠ざかっていく気がするんですが、何しろ地球外で生きているんです。地球人の常識なんか軽く飛び越えて当然なんです。そう思い込むことで気持ちを強く持ち、私は宇宙人を描きました。

 ペンを持ち始めて数分、ひとまず何かの絵は描きました。理屈もセンスもない、宇宙人かどうかも分からない絵です。不思議なことに、それでも絵を見て「なんか物足りないな」と思ったんです。適当に描いてるんだから足りるも何もないはずなんですが、とにかく思った。

 私は新たにペンを持ちますと、マイ宇宙人の両脇にサラサラと羽のようなものを描きまして、それで完成としました。そこで私、しまったと思ったんです。

 私、以前にnoteでZAZYさんの羽について書いたんです。

 要約すると「芸人だろうが芸術家だろうが、どういうわけか人はいろんなものに羽をつけたがる」という話です。よろしければ皆さんも身の回りや過去の記憶から探してみてください。いろんな人がいろんなものに羽をつけてきたことが分かると思います。ちょっと意地悪な表現をすれば、羽をつけるというデコレーションは割と安易だとも言える。

 私はそんなことをnoteに書いたはずなのに、それをスッカリ忘れ、宇宙人に羽を描いてしまったんです。宇宙人の素人という自覚はあったつもりですが、羽をつけるだなんて安易な選択をしてしまうとは。

 私の絵を見た研究者の方は「いいですね」とおっしゃっていました。もちろん、社交辞令でおっしゃったんだとは思いますけれども、もしマジで言ったのだとしたら、研究者も意外と宇宙人に対してまだまだ素人なんだと思います。

 ここまで書いといてあれですが、なんで安易に羽を描いて悔しがっているのか、自分でもよく分かりません。

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