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第4の猿は疑問を振りまく

 以前も書きましたけれども、私の知り合いで唯一、何のためらいもなくダジャレを言う人がいます。今回も仮に浅田さんとしておきます。

 単にダジャレを言うだけではないんです。浅田さんはダジャレを言うにあたり、自身にいくつものルールを課しているんです。「いつでも思いつけるようアイドリングしておく」「思いついたら誰よりも早く言う」「満を持して言わない」「ウケは期待しない」など、まるでアスリートとも言うべきストイックさです。

 そんな浅田さんでございますから、ダジャレに対して並々ならぬ上昇志向があるんです。だから、過去の偉大な作品に挑み、隙さえあれば上回ってやろうと、虎視眈々と狙っているわけです。

 日本におけるダジャレの古典と言えば「見ざる言わざる聞かざる」でございます。日光東照宮には猿を模した立体作品が残っておりまして、見ざる担当は手で目を隠し、言わざる担当は手で口を押さえ、聞かざる担当は手で耳を塞いでいるわけです。

 もちろん、「~しない」を意味する「~ざる」と「猿」をかけたダジャレでございます。ダジャレとしては割と思いつきやすいため、考えようと思えばいろんな「~ざる」系の猿が考えられるわけです。浅田さんとしては、東照宮に追加されるくらい立派な猿を思いつきたいと思っていますし、何なら三猿の1匹を蹴落としてでもレギュラーの座を勝ち取りたいと考えているんです。

 伝統の維持は大切です。しかし、伝統は時に変化も必要なんです。そして、浅田さんは三猿に変化をもたらそう、昔の猿を越えていこうと日々考えているわけです。

 先ほども書きました通り、考えようと思えばいろんな猿が考えられるんです。だから、新しい猿をメンバーに入れようと試みる人がいるらしく、それを浅田さんはネットで拾っては鑑賞しているようなんです。中でも、浅田さんがわざわざ私に存在を教えてきた猿は、両手で股間を押さえた「せ猿」です。

 浅田さんは上品な女性なんです。普段は下ネタなんてまず言わない。でも、この時ばかりは新しい猿を発見した興奮からか、私に報告してきました。「作者はアホだね」と私が笑えば、浅田さんは「その通りです」と真顔で同意してきました。これでは三猿どころか四猿にも入らないと言いたげにも見えました。

 そんなある日、浅田さんはまた新たな猿を報告しに来ました。今度は浅田さんが思いついたそうです。その猿は「知られ猿」でした。浅田さんは「知られ猿」の最大のチャームポイントを次のように表現しました。

「知られているのか、知られていないのか、よく分からないところがいいんです」

 一瞬、何を言いたいのかよく分からなかったんですが、「知られ猿」の文字列を何度も見返してようやく言わんとしていることが分かりました。「知られ猿」は明らかに「知られざる」と「猿」をかけたダジャレなんですけれども、「知られざる」が「知られ猿」になった途端、知られている猿にも見えてくるんです。ダジャレはふたつの意味を持つことからダブルミーニングなんて言い方をされる場合もございますけれども、「知られ猿」に至ってはトリプルミーニングになっているようにも見えます。

 果たして、「知られ猿」は四猿になれるのか。もしくは、既存の猿1匹を蹴落として新たに三猿へ入る実力があるのか。いや、よくよく考えたら、どうすれば四猿に入れるのか全然分かりませんし、三猿に対する勝利条件が何なのかも皆目見当がつきません。よしんば「知られ猿」が三猿として認知されたところで、日光東照宮に展示される彫刻はどういった格好にすればいいのでしょう。「知られ猿」の両手はどこを隠せばいいのか。想像がつかないんです。

 「知られ猿」が東照宮への殴り込みを成功させられるのかどうかは未知数ですが、少なくともよく分からない疑問をいくつも振りまいているのは確かなようです。

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