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ダジャレの正しい使い方か

 ダジャレを避けている方がいると思うんです。何しろ、ダジャレはつまらないウケ狙いの代表格と思われがちです。親父ギャグとほぼイコールで結ばれていたりもする。風当たりは強めです。

 だから、ダジャレが頭にパッと思い浮かんでも、言ったあとの空気を想像すると、どうしても飲み込んでしまう。そんな人がいてもおかしくありません。

 最近ではダジャレを忌み嫌う傾向が続いてきたせいか、私の周囲でダジャレを言う人はほとんどいなくなりました。ただし、ひとりだけ例外がいます。ここでは仮に浅田さんとしておきますけれども、彼女だけはダジャレを言うんです。ええ、親父ギャグとほぼイコールで結ばれるダジャレですが、浅田さんは女性でございます。

 浅田さんは誰もが一度は思い浮ぶようなものから、あまり聞いたことがないものまで、目についたもの、思い浮かんだものを次々にダジャレへと変換します。あまり聞いたことのないものとしては、「ミオカステーロ」というマンション名を見た瞬間に言い放った「芸はミオカステーロ」、越中島駅で降りた際に発した「きゃー、のび太さんの越中島!」なんかがあります。ダジャレ目的とは言え、越中島駅のホームで女性に悲鳴をあげられたので私は物凄く肝を冷やしてしまいました。

 しかし、本当にダジャレを言いまくるんです。しかも、物凄い早さで。仕事中でも気にせず口にします。私の周囲でこんなにダジャレを言いまくる人が他にいないので、ついついいろいろ聞いてしまいました。そもそもの疑問はこれです。「ダジャレなんてウケないことが多いのに、どうして言うのか」。

 浅田さんの答えはこうでした。「そもそもウケるとは思っていない」。

「じゃあ、スベろうとしてんの?」
「違いますよ。言っときますけど、スベり笑いも期待していません」
「何を期待してるの」
「何も期待していませんよ。思いついたらすぐに言うだけです」

 誰も参加していないレースを誰よりも一生懸命やっているかのようです。浅田さんは更にこう言います。

「みんな言うんですよ、『自分も思いついていたのに』って。言うのが遅いんです。私は思いついたらすぐ言えるよう、普段からアイドリングしてるんです」

 これをストイックと言ったらストイックから怒られそうですけれども、でもなんかストイックに見えます。ちなみに、これだけダジャレを言いまくる浅田さんですが、別に「親父ギャグ」とか言われてウザがられてはいません。むしろ人気があるほうです。理由は私にも何となく分かります。ダジャレの言い方に、親父ギャグ独特の嫌さが全然ないんです。「ウケもスベりも期待していない」と本人から聞いて、その理由が何となく分かりました。

 浅田さんは言います。

「満を持して言うからダメなんですよ。思いついたらパッと言って、すぐ次に行くんです」

 何も期待しない。思いついたら誰よりも早く言い、そして振り返らない。修行僧みたいな姿勢です。

 実は周囲をよく見てみると、浅田さん発じゃなくても、嫌さのないダジャレは意外とそこら辺に転がっています。割とオシャレな製品名になっている場合もありますし、それこそお笑い芸人のネタを見ていると普通にダジャレが混じっていて、しかもちゃんとウケていたりする。つまり、ダジャレも使い方次第では素晴らしい名前になったり、人を笑わせるおしゃべりになったりする。親父ギャグとされるダジャレは使い方がマズかっただけであり、ちゃんと使えばいい効果が見込める。つまり、ダジャレの使い方には正解があるのだと思います。

 では、どう使えば正解なのか。そもそもダジャレがなかなか思いつけない私には、正解を書き記すことなんて到底できません。ただし、浅田さんのダジャレに対する姿勢に大きなヒントがいくつもあるのではないかと考えております。

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