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はじめてのかめはめ波

 普通に生きてたって異常に生きてたって初めてはそこかしこにあるわけです。ただ記憶に残るかどうかの差はあります。初めての一等、初めての恋人、初めての還暦、印象深いものは思い出として生涯にわたって大切に抱えてゆくことでしょう。

 一方、多くの初めてを忘れて生きているとも言えます。私だって初めてパンを食べた記憶、初めて靴を履いた記憶、初めてものを買った記憶、どれも綺麗に忘れています。そうかと思えば、妙な初めてが記憶に残っていたりする。

 私が幼稚園児をしていた頃です。隣の教室の子らが先生のエレクトーン演奏に合わせて歌をうたっていました。「南の島のハメハメハ大王」という童謡です。

 歌詞はネットで調べればすぐに出てきます。サビは南の島らしい陽気な音楽にのせて、ひたすらハメハメハの名を歌いまくります。分かりやすく、そして子供が歌いたくなる、どこかおかしな言葉、ハメハメハ。いま考えれば、よくできた歌かもしれません。

 しかし、この時、隣の教室にいた子らは歌いながら妙な動きをしていました。両手を腰の右側にくっつけては、腹の前に出すような動きを繰り返している。お調子者の男子を中心に、明らかに悪ふざけでやっているところを見ると、先生に教えてもらった振り付けというわけでもなさそうです。

 後になって理由が分かりました。男子がやっていたのは、当時から少年たちに人気だったアニメ「ドラゴンボール」のかめはめ波でした。男子は「ハメハメハー」と歌いながら、かめはめ波を撃つ真似をしていたのです。

 思えば、これが私とかめはめ波との初めての出会いであり、「ドラゴンボール」との初めての出会いでもありました。それからは私も人並みに漫画やアニメでドラゴンボールと親しみ、現在に至ります。

 ドラゴンボールの入口としては、そこそこ特殊な気がします。なんか正面玄関から入らずに二階の小窓から中に入っちゃったみたいな。だから覚えているのかもしれません。

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