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見間違いが直らない

 日々ボーっと過ごしているせいなのか、激しい見間違いをしてしまうんです。あとで振り返って「我ながらアホなんじゃないか」と思わずにはいられないような見間違いです。

 例えば、近所を歩いていると近くの家の屋根に、明らかに小さい人がしがみついているのを目撃したんです。身長は目測で30センチくらいでしょうか。最初は人形かと思ったんですが、どう見ても動いています。明らかに何らかの作業をしている。何だこれはと道端で立ち止まり、しばらく目を凝らしてようやく分かりました。確かに屋根の上で人が作業をしていたんですが、それはずっと先にある家の屋根だったんです。たまたま私から見ると近くの屋根のてっぺんとずっと先の屋根のてっぺんがちょうど重なってしまうため、遠近法マジックで近くに小さな人がいるように錯覚したわけです。

 理屈が分かっても、「もうちょっと落ち着いて見れば分かったはずだろ」と自らに猛省を促したくなる、そんな見間違いでございます。何ならちょっと落ち込んだりもする。ただ、わずかながら希望もございます。世の中には「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という諺があります。「幽霊かと思ったら枯れ尾花だった」、つまり激しめの見間違いをする人は昔から一定数いたということです。

 ただ、幽霊みたいなショッキングなものと見間違えると、思わず声が出かねない場合があるんです。見間違いで叫び声をあげてしまった暁には、例え数秒後に「ああ、枯れ尾花か」と分かったところで、出合い頭にビックリした事実はなくなりません。むしろ、冷静になれた分だけ恥ずかしくなる。なるべくなら、勘違いで叫ぶ事態は避けたいところです。

 先日も危ないところだったんです。親御さんが小さな子供を載せて自転車を運転する光景をよく見ますが、最近はハンドルより前にチャイルドシートを設置するタイプがだいぶ増えてきました。いわゆる「前乗せ」というやつですね。

 そんなある日の夜でございます。私は住宅地の中をひとり歩いていました。住宅地には街灯が設置されているとはいえ、場所によっては暗闇が溜まり、お世辞にも視界がいいとは言えない環境です。そんな中、少し先の丁字路から不意に1台の自転車が音もなくスッと現れたんです。自転車のライトは点いていませんでしたが、「前乗せ」タイプだとすぐ分かりました。

 そのチャイルドシートを見て私は思わず叫び声をあげそうになりました。チャイルドシートに子供の頭部のようなものが置かれていたからです。自転車が近づいてきて、私はすぐさま己の見間違いに気づきました。子供の頭部と思っていたものは、子供用のヘルメットだったんです。なるほど、惜しい。いや、惜しいわけがない。「似て非なる」どころか「似てない非」です。

 多分、私は江戸時代とかに生まれていたら、いろんな見間違いをしまくって、いろんな怪談話を公害のようにまき散らす存在だったと思います。昔に生まれなくて本当によかったと思います。

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