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規制線の現実を見た

 その昔、とある取引先へ打ち合わせに行ったんです。ビルが立ち並ぶ都会でございましたが、近くでは新たにビルを建設している、今なお進化している都市でございました。

 外でサイレンの音がするとは思ってたんです。でも、そんなことはままあることですし、そもそも仕事中でございましたから、そんなに気にしてはいなかったんです。

 打ち合わせは朝に始まり、昼になっても終わる兆しが見られませんでした。もともと長時間に及ぶ打ち合わせでございましたから、我々は慌てず、一旦お昼休憩をしようということになったんです。

 近くのコンビニに行こうと外に出ると、なんか外が騒がしいんです。消防車が何台も止まっている。火事でも起きたのかと辺りを見回しましたが、どこにも煙は見当たらない。

 とりあえず昼食を買いに行こうとコンビニに向かったんです。打ち合わせをしていたビルからわずか10メートルのところだったんですが、その短い距離に規制線が貼られてたんです。「立入禁止」と書かれた黄色いテープで道がふさがれていて、そばには警察官が立っている。

 規制線を初めて見た私は「警察って本当にこういうテープを使うんだなあ」と感心したわけなんですが、これではコンビニに行けません。さて、どうしたもんかと思っていると、そこへ1台のトラックが規制線の向こう側から近づいてきました。すると、警察官が運転手に話しかけます。

「作業員の方ですね?」
「そうです」
「どうぞ、すぐそこです」

 そう言って、警察官はトラックを通します。トラックは私のそばを通りすぎ、ビルの建設現場へ。そこでは警察やら消防やら作業員やらが慌てた様子で動いており、一般の人が近寄れる状況ではありませんでした。どうも建設現場で何かあったようで、つまり私は規制線の内側にいたんです。私は知らぬ間に規制されていたんです。とりあえず、トラックに夢中の警官を尻目に私はアッサリと規制線の外側に抜けまして、悠々とコンビニに入りました。

 昼時ということもあってコンビニは混んでおり、ご飯を買うにもそこそこの時間がかかりました。ようやく外に出ると、規制線の範囲はだいぶ縮小されておりまして、普通に取引先のビルへ入れるようになっていました。規制線のそばには看板も建てられていました。どうも建設作業中にガス漏れが起きたようです。

 特に何事もなくて良かったのは確かだったんですが、まさか初めての規制線を内側から見ることになるとは思いませんでした。警察官ではない私は、規制線なんて外側から見るものだと思っていましたけれども、警察官じゃなくても意外と内側から見られるものなのでしょうか。規制線ビギナーの私にはよく分かりません。

 ガス漏れという急を要する事態だったこともあり、慌てて規制線を張ったせいもあったのでしょう。規制線の出入りは意外と緩く、取引先の方は警官がいるのに何の問題もなく中に入れたとおっしゃってました。取引先のビルはガス漏れを起こしたわけはない、すなわち本当に人が入って来ては困る区域ではなかったため、緩かったのだとは思いますが。

 規制線の現実を垣間見た気分です。

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