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怪談のたまご

 知人から聞いた話です。

 知人は路線バスに乗って家路を急いでいた。しかし、その日は多くの用事をこなして疲れていました。乗り慣れたバスの車窓から見えるのは何百回と見た退屈な景色。知人は座席でウトウトするようになりました。

 しばらくして知人は妙な気配を感じて目を覚ましました。そして固まりました。自分以外のバスの乗客が全てお坊さんになっていたからです。

 もちろん、落ち着いて考えれば分かる話なんです。知人が乗っていたバスは大きなお寺のそばを通ります。恐らくそこの関係者がまとめてバスに乗ってきた。よくある現象ではありませんけれども、決してあり得ない現象ではない。ただ、お坊さんばかり乗っているバスで目覚めた知人は一瞬、自分は死んだんじゃないかと思ったそうです。

 一方、私はこんな体験をしました。

 私、霊園がどういうものか知らずに生まれ育ってきたため、職場の近くに霊園があると知ると、さっそく就業時間後に霊園へ向かったんです。どう言い訳しても間違いなく不審者の類です。

 その霊園が本当に広かったんです。もう見渡す限りの墓。辺りは夜だったんですが、街灯が設置されていて問題ない明るさでしたし、掃除や草刈りといった整備も行き届いている。そのせいか、夜でも散歩をしている人がチラホラいるんです。

 意外な雰囲気に私も霊園の散歩を始めたんですが、本当に広い。歩けども歩けども端に辿り着きません。10分くらい進んで不安になってきた私は来た道を戻ろうとしました。しかし、霊園なんてどこも小道と墓石と街灯ばかりで、どこをどう歩いてきたか、全く分からなくなっていました。不審者に間違われるのが怖くて散歩している人に聞く勇気もない。というか、いつの間にか周囲に散歩してる人がいない。全身に嫌な汗をかきながら、霊園をあっちこっち歩き回りまして、ようやく入口まで戻ってきました。いや本当に、死者が私の帰宅を阻んでいるのかと焦りました。

 知人のお坊さんバスとか私の霊園迷子とか、こういう出来事から怪談は生まれるのかもしれません。

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