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勝手に自分のための道路が出来上がった

 2年に1回、役所に申請しないといけないものがあるんです。必要な書類を用意して役所に出すわけなんですけど、役所と自宅の位置関係が悪い意味で絶妙なんです。どういうわけだか、公共交通機関を使うとかえって時間がかかってしまう。かと言って自力で行くにしても結構な距離があるので、どんなルートを使おうと時間も手間もかかってしまうんです。

 そして、何よりも申請の道を阻むのは複雑な道順です。自宅から役所までの間はほとんど住宅街なんですけれども、区画整理が全然されていないためグニャグニャ曲がった道だったり、よく分からない角度で道が接する交差点だったりと、地図を見ながらでも迷いそうになるポイントがたくさんあるんです。

 初めて役所へ申請しに行った時には10回は立ち止まって睨むように地図を見て位置関係を確認しましたし、それでも道を間違えて30分くらい迷っていました。役所に辿り着いたとしても安心できません。帰り道があります。来た道を戻るだけだと言っても、同じ道でも違う角度から眺めると随分印象が変わるものです。ましてや慣れてない道ともなると完全に別の景色と言ってもいい。つまり、すんなり自宅に戻れる保証はどこにもないんです。案の定、私は来た道とは全く別のルートに迷い込んでしまい、行き止まりに何度か遭遇しつつも何とか自宅に帰りました。

 次の申請時、そのまた次の申請時と、申請の回数を経るごとに、役所まで行く時間が短くなってきました。2年に1回通る道とは言え、何度も歩けばだんだんと慣れてくるようです。それでも、道幅の割に車がよく通る道とか、歩道がビックリするくらい細い場所とか、道中に進みづらいところが点在してはいました。

 また申請の時期になりまして、必要書類を用意した私はスマホ片手に役所へ向かいました。スマホで確認した時から違和感はあったんです。前に申請した時と地図がちょっと違う気がすると。

 違和感の理由はすぐ分かりました。しばらく歩いていると、真新しい道路が役所方面に向かって一直線に伸びているではありませんか。車道も歩道も十分すぎるくらい幅がある。移動時間がグッと短縮されたばかりか、進みづらい場所を通らなくても良くなりました。

 そんな道路を歩きながら、私はひとつの噂話を思い出しました。ドラゴンボールなどで有名な鳥山明さんがあまりにも高額納税者だったため、引っ越しを危惧した地元自治体が鳥山さんの自宅から空港までの道路を整備したというものです。俗に「鳥山明ロード」とも言われているらしいその道はどうやら単なる都市伝説に過ぎないようですが、私が歩いている道路はまさにそんな感じじゃないですか。世界は私を中心に動いているのではないかと思えるほど、素晴らしい道路が勝手にできあがったんですから。星野梟月ロードと言っても過言ではない。

 まあ、実際は地域住民の要望などを取り入れて、みんなが使いやすい道路を自治体なり何なりが設置したに違いありません。細い上、複雑に曲がりくねった道ばかり続くのは、地域住民にとっても頭痛の種だったのでしょう。役所に用があるたびに行き止まりにぶち当たっていては不便というかストレスで申請どころではありません。だから、太くて真っすぐな道をドーンと作ったほうがいいという結論になった。

 私は要望を出した皆さんの恩恵にちゃっかり預かって、「ほー、こりゃ便利だ」と言っていただけなんですね。一瞬でも星野梟月ロードなんて言葉を思いついた自分の脳に猛省を促したいと思います。

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