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サカサクラゲ、楽を覚える

 昔、近くの百貨店に移動水族館を見に行きました。催事場にどこからか借りてきた水生生物を水槽ごと展示するという、非常に分かりやすい催しものです。さすがに大きな生物は無理だったようですが、百貨店で見るには珍しいものを用意していたと記憶しています。

 そんな移動水族館でも目玉のひとつがクリオネでした。当時は一度も見たことがなかったので、それなりに期待していたのですが、いざクリオネの水槽に来ますと、どうも様子がおかしい。氷の入った水槽にいるクリオネ数匹は、どれもぐったりして動きません。一緒に来ていた友人は「死んでんじゃないの」と眉をひそめました。

 本当は寝ていただけかもしれませんし、何らかの理由でじっとしていただけかもしれません。ですが、友人は「酷い話だ」と憤ったまま、クリオネの水槽をあとにしました。普通、クリオネを初めて見る時は「思ったより小さい」とかそういう感想を抱くものですが、それ以外の異変がデカすぎて大きさに触れる余裕がありませんでした。

 仮にクリオネが亡くなっていたとしても、水族館側の意図しないタイミングで亡くなってしまい、その様子を客に見られてしまうことは可能性として充分にありえます。生き物と関わる仕事の宿命と言えるでしょう。

 さて、クリオネといえば殻を持たない貝として知られていますが、生き物にはしばしば変わり種がございます。例えば泳ぎ方ひとつとってもそうです。

 魚の泳ぎ方といえばは頭を前にして泳ぐのが基本ですが、その大前提に従わず独自路線を突き進むタイプが少数ながら存在します。

 タチウオは頭を上にして泳ぐ場合がありますし、

ヘコアユは逆に頭を下にして泳ぎます。

 背泳ぎのように上下逆さまに泳ぐナマズは文字通りサカサナマズと呼ばれています。

 逆さで泳ぐ生き物は他にもいます。水中を漂うように泳ぐクラゲにも存在しまして、名前はサカサクラゲと命名者の真っ直ぐな性格が見て取れるかのようです。

 サカサクラゲは独特な割に飼育がしやすいのか、水族館では比較的見られる生き物です。私も何度か見たことがあるんですが、大体はこんな感じで水槽の底に傘をペッタリとつけてるんです。

 パフッパフッと傘を定期的に動かしているんで、生きてはいるんでしょうが、クリオネの一件があるため、虫の息に見えるんです。最初は「大丈夫かな」と思ったんですが、どの水族館でもサカサクラゲはこんな感じだったんです。

 どうやら野生でもそんな感じだったので安心しました。

 一応、泳いでいる様子が見られる動画もあります。

 独特な姿勢も餌を効率的に食べるのには意外と都合のいいスタイルのようです。サカサクラゲとしてもどこかの段階で気づいたんでしょうね。「あ、底に傘つけると楽だぞ」と。他と違ったことをすると違った発見をする。クラゲもまた同様のようです。

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