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癖は偉大なのか

 満員電車に乗っていたら、前の男性の上着が、左肩だけ生地が薄くなってたんです。なんなら、生地が薄すぎて上着の向こう側が見えていました。男性は肩かけの鞄を持っていまして、鞄のベルトがちょうど薄くなった生地の上を通っている。

 多分、この方は肩かけ鞄をずっと左肩にかけて生活してきたんでしょう。そして、上着は相当長い間、着てきたに違いない。だから、左肩だけやたらと薄くなってしまった。

 どうして新しい上着を買わないのかは謎ですが、とにかく思いましたのは、人にはそれぞれ癖があり、時にそれは身体や物に特徴的な痕を残すことがあるのだということです。

 きっと、狙ってできるものではないでしょう。上着に穴を空けかけるくらい、同じ服を着て同じ肩に鞄のベルトをかけるなんて、癖にでもならなければ達成は困難です。油断すれば逆の肩に鞄をかける危険は常につきまといますし、穴が空く前に上着を再起不能レベルに汚しまくって廃棄処分にしてしまうかもしれない。癖のように同じ行動を意図的にやろうと思うと、予想以上に困難が伴うんです。

 こんな方もいらっしゃいました。出勤時、同じ時刻に同じ電車の同じドアから乗り込んでますと、同じ人をよく見るようになります。

 とある女性もそんなよく見る方のひとりです。女性は私が乗る駅で降りるようで、女性が電車を降りてから私が電車に乗り込む、ただそれだけの関係です。つまり無関係ですね。

 この女性、いつもマスクをし、メガネをかけているんですが、冬になりますと必ず向かって右側のレンズだけ曇ってるんです。つまり、この女性はマスクのかけ方もしくは呼吸に癖があり、メガネの右側にだけ常に息が当たっている。気温の低い季節にだけ、それがレンズの曇りとなって現れるということなんでしょう。

 確認できる現象は極めてささやかですが、狙ってやるのは非常に困難を伴います。毎日、メガネの同じ場所に息が当たるようにマスクをつけ、呼吸をするなんて、余程のスナイパーでもなければ不可能です。しかも、難易度の割にやったところで誰の得にも損にもならない。敢えてやりたがる人類なんてまずいない、高難度の行為なんです。

 そんな誰もやらなそうな行為を、名も知らぬ女性は毎日いとも簡単にやってのけている。癖は偉大だなと思いそうになっている自分がいます。

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