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証拠にならない写真

 その日はしっかり昼寝してしまい、次の日も休みとあって、夜更かしをしていました。それだけ夜更かししてもやることは動画を見たりゲームをやったりと、要は暇つぶししかしていません。だったら寝ればいいじゃないか、と私も思うんですけれども、昼寝が相当効いていて、寝る気にならないんです。

 真夜中も過ぎているとあって、隣の住民も上の住民も静かで、外も音らしい音が聞こえません。壁は薄いはずなのに人の気配がしない。ワンルームの私の家だけ宇宙に放り出されたような、寂しいようで、なんか心地いい、癖になりそうな空間です。

 何しろワンルームですから、部屋でゲームをしていても、ふと横を見ると玄関のドアがある。当時住んでいたアパートはドアポスト、つまり手紙やチラシをドアの穴から放り込んでもらう方式になっておりまして、しかも受け箱にあたるものがついていません。ドアに横長の穴が開いていて、そこに簡単なフタがついているだけなんです。

 そのため、例えば郵便屋さんがハガキをドアポストに投函すると、そのまま玄関の床にペタッと落ちるわけです。そこへ帰宅した私が踏みつける。しかも、そんな時に限って外は雨だったりします。もうハガキは大惨事。インクはにじむし紙はヨレヨレです。

 たまに、チラシなんかを奥まで押し込まない人がいます。そうなると、チラシがドアポストの穴に引っ掛かる形になります。半分は室内、もう半分は屋外にあり、そのままにしておくと室外のほうだけ雨に濡れて乾いてシワシワになったりもします。

 その時のドアにもチラシが引っ掛かってました。半分は室外にある例の状態です。それがゲームをしている私にも一目瞭然、「うむ、確かに引っかかってる」と思うわけです。

 時刻は午前3時ごろだったと思います。急にドアの外で呻き声が聞こえました。いや、呻いているというよりは、喚いていると言ったほうがいいでしょうか。とにかく、不穏な声が聞こえたんです。

 外に変なやつがいる。私はゲームどころじゃなくなりました。その間も不穏な声は止まりません。そのうち、ドアポストに引っ掛かってるチラシがゴソゴソ動き、こちら側に若干押し込まれてきました。慌てふためいた私、とりあえず、証拠写真としてチラシの写真をスマホで撮り、護身用に包丁を持って、ドアの外を警戒していました。しかし、そのうち緊張感が途絶え、代わりに眠くなる。私は包丁を机に置き、そのままウトウトしてしまいました。

 次の日、恐る恐る外を見ても、特に異常はありません。その日の夜も、そのまた次の日の夜も、特に異常はない。そのうち、そんな恐怖体験も忘れて、平凡な生活に戻っていきました。あの時に喚いていた人はきっとどこかの酔っぱらいか何かで、表でフラフラしていた時、たまたま私のドアに引っ掛かっていたチラシを身体で押してしまったに違いありません。

 それからしばらくして、スマホを買い替える時、画像を見返していたら、例のチラシが引っ掛かった画像が出てきて、久々にあの日の恐怖体験を思い出しました。そして、思ったんです。証拠写真に撮ったはいいけど、仮に外のやつが突撃してきて、翌日、変わり果てた姿の私が発見されたとして、警察がスマホに残ったドアの画像を見たところで「はて、これは」と思うだけでしょう。いや、そう思ってもらえるだけいいほうで、事件の証拠にしないかもしれない。そもそも、そんなドア画像で犯人を導き出すなんて、探偵アニメの主人公くらい反則的な推理力を持っている超人に限られます。

 ビビりすぎると変な行動をしてしまう。人間のヘマとしては、割と王道なところをやらかした私でございました。

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