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「川の様子を見に行く」とはどういうことか

 台風が来るとよく現れるのが様子を見に行く人です。台風で亡くなられる方の理由としてしばしばあげられ、気象庁や各マスコミが様子を見に行かないよう訴えることが増えたように思います。

 様子を見に行くもののツートップが田んぼと川です。田んぼに関しては検索すると、水量調節という目的があるらしいというページがすぐ出てきます。

 一方で「ただ見てみたい」という衝動も原因であるとする記事も出てきました。

 川に関しては特に物見遊山的に見に行って、一部の人が何らかの理由で流されてしまっているのではないかと、そんな予想です。

 増水した川を見てみたい気持ちは分からなくもありません。ものすごい濁流はなかなか普段見れない光景です。しかし、ほとんどの人間は濁流を見た時点で「ヤバい」と判断するでしょう。風雨が強い状況ならばなおさらです。見たいという気持ちと身の安全の確保に折り合いをつけて判断する人が大半だと思います。それでも流される人がいる。

 流された人は何をしていたのか。どうして流されてしまったのか。私にとっては、ここが不思議だったんです。風にあおられたり足を滑らせたりして川に落ちてしまった可能性が充分に考えられますけれども、その割には流される人が多い気がしたんです。

 その疑問を解決する出来事がふたつございました。ひとつは友人の話です。

 台風がすっかり通り過ぎたため、友人は犬の散歩をしていたそうです。ただし、実際は犬の散歩にかこつけて、台風通過直後の町の光景を見て回ろうとしていました。道端に転がっているトタンのかけらやちぎれた枝なんかを見つけてはサンダルを履いた足で蹴り飛ばし、「すげえな台風」と喜んでいたんだそうです。心なしか犬も普段より尻尾を振って駆け巡っていた。

 特に心を惹かれたのが川だったそうです。友人の散歩コースにある川は幅の割に水深が非常に浅く、普段は川に入ると足の甲が水面から飛び出るレベルでした。そんな川も台風直後とあっては、茶色い水が河口に向かって勢いよく流れてゆく。「すげえな台風」と友人は改めて喜びました。

 そこでふと思ったそうです。「ここ渡れるんじゃね」と。何しろ、毎日のように見ている川です。どの程度の水深かは何となく判断できる。友人の見積もりでは、当時の水深は膝下10センチくらいだろうとのことでした。その時の友人の格好はハーフパンツにサンダル履き。「いける」と判断しました。

 そんな話を私にしてくるんですから友人も犬も無事だったんですが、あまりの水流の強さにビビったそうで、ハーフパンツは濁流でしっかりびしょ濡れになり、犬もまたずぶ濡れだったため異変を察した母親に追及されて友人の川渡りはアッサリとバレてしまい、結構な感じで怒られたようです。

 もうひとつの話はテレビで放送されていた某ニュース番組でのことです。

 台風が来るということで、様々な人の動向を取材していたんですけれども、とある初老の男性が激しい風雨の中、レインコートを着てどこかへ出かけたんです。取材クルーが後を追いますと、その男性は茶色く増水した川にいました。しかも、胸の辺りまで濁流に浸かっている。

 「何をしているんですか」という妙に冷静な記者の質問に対して男性はこう答えました。「船が流されないようにロープで結びに来た」。

 確かに男性のすぐ隣には岸とロープで結ばれたボートが浮かんでいました。1本のロープでは不安だったため、もっとロープを使ってやろうと、そういう魂胆だったんだと思います。でも、私はその光景を見て思いました。「こんなことしてたらいつか流されるぞ」と。

 台風でテンションが上がったりいろいろ心配になったりして川に近づくだけならまだしも、なんかとんでもない行動に出る人がいるんだと私は知りました。もちろん、とんでもない行動に出る人はごく一部の人であり、その中でも更にごく一部の人が不幸にも流されてしまうのだと思います。

 つまり、安全に田んぼや川の様子を見に行ったり、危険な感じで見に行ったけど無事に戻って来てる人がいるということでもあるわけです。何と言うか、人間っていろんな方面に奥深い生物なんだなあと思わずにはいられなくなりました。

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