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他人の「塞翁が馬」を見た話

 好きかどうかはともかく「本当にそうだなあ」と思える言葉に「人間万事塞翁が馬」がございます。「塞翁が馬」とも略されますね。出典は中国の古典「淮南子えなんじ」だそうです。

 幸運が不運を連れてきたり、その逆もあったり。もちろん、幸運か不運がひたすら連鎖する場合もあるでしょうけれども、とにかく予想がつかない。そんな意味です。

 淮南子は2000年以上前に編纂されたものだそうですが、「塞翁が馬」は今でも余裕で通じる話です。「考えた人はすごいな」と思いますが、同時にこうも思います。「『塞翁が馬』は時代を問わず普遍的なものなんだ」と。

 例えば、ピエール瀧さんはミュージシャンとしてだけでなく、役者としても幅広い活動をしていましたけれども、2019年に麻薬取締法違反容疑で逮捕されます。その際、彼の幅広い活動が仇となり、番組レギュラーの降板、主演番組の打ち切り、出演ドラマの再撮影、ライブ出演の取りやめ、楽曲配信の停止など、影響が多方面に及びます。一説には違約金や損害賠償を合計すると30億円を超えると言われていました。

 多くの場合、いい評判よりも悪い評判のほうがよく広がります。酷い話にも思えますが、悪評をいち早く察知することが危機回避に繋がる場合もある。だから、人はそんな性質を手にしたのかもしれません。とにかく、ピエール瀧さんの場合も例外ではなく、逮捕された途端に彼のニュースがブワッと広まった。ピエール瀧さんが芸能活動を開始して久しいですが、道端で彼の話をしているご婦人おふたりを見かけたのも後にも先にも逮捕されたばかりの頃だけです。

 悪評が大量に出回れば、有名人としてのダメージは計り知れないでしょう。肉体的にも精神的にもしんどいに違いない。ただ、「人間万事塞翁が馬」でございまして、全てが悪いわけでは決してないようです。例えば、事件をきっかけにピエール瀧さんに興味を持ち始め、どっぷりハマっていった人の話が電気グルーヴのラジオで語られています。

 ピエール瀧さんはその後、無事に復帰し、お仕事も徐々に増やされているようです。離れていった人はいたでしょうけど、新しいファンができたのは何よりだと思います。もちろん、そのファンが本当に存在するか分からないと言ってしまえばそれまでですけれども、あり得る話だとは思います。と申しますのも、私も先日、似たような出来事に遭遇したからです。

 とある日曜日、とある高校のそばを歩いていた時です。休憩時間なのか、サッカーコートの隅で男子高校生が数人、地べたに座ってスマホで音楽を流しながら談笑していました。その音楽というのが、当時、不祥事で世間を騒がせている真っ最中だった某女性タレントのデビュー曲でした。

 その某女性タレントは当時もうベテランでございました。だから、彼女のデビュー曲が流行した頃は相当前、それこそ今の高校生のご両親が高校生だった頃に聞いていたような曲なんです。男子高校生たちは不祥事をきっかけに興味を持ち、ちょっと聞いてみようという話になった可能性は高い。

 某女性タレントが復帰したとの話をまだ聞きませんが、こうしている間にも水面下では不祥事をきっかけにファンとなった人がチラホラいるのかもしれない。そして、新しいファンが復帰やその後の手助けとなるのかもしれません。もちろん、そうならない可能性もあるでしょう。とにかく世の中は本当に予想がつかない。幸運で調子に乗ってはいけませんが、不運で落ち込み過ぎる必要もない。「塞翁が馬」は今後も通用する言葉であり続けそうです。

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