NSC出身者はM-1優勝が難しいのか調べました
何かでチラッと耳にしたんです。吉本興業の方が「M-1の優勝者にNSC出身者が少ない」と危機感を持っていると。NSCとはもちろん、吉本興業が運営するお笑い芸人の養成所でございます。M-1を始めとする大型賞レースの運営に大きく関わっている吉本としては、生え抜き中の生え抜きがなかなか勝てない事態を重く見る気持ちはよく分かります。
では、実際にどれくらいのNSC出身者がM-1を獲っているのでしょうか。優勝者だけでなく、決勝進出者はどこがどうなんでしょうか。いろいろ気になりましたので、軽く調べました。
調査方法はネットで調べた情報をコツコツとカウントしていくシンプルなものです。調査対象者は2023年までのM-1参加者です。ただし、M-1の休止期間(2011年~2014年)は代わりに開催されていた漫才の大会「THE MANZAI」の記録を採用しています。ただし、ふたつの大会は参加資格や審査方法などがいろいろ異なっておりますので、それぞれの大会ごとにカウントしたものと、ふたつを合計したものの両方を作ってみました。また、芸人の名前は基本的に敬称略となっておりますので、ご了承くださいませ。
以下、ご覧になる際の注意点をいくつか申し上げます。
まず養成所の定義ですが、NSCなど事務所が運営しているもののほか、専門学校や構成作家が主催するお笑いの学校としました。
養成所の名称につきましては、現在のものを採用しています。例えば、「TOKYO☆笑BIZ」は現在「サンミュージックアカデミー」のお笑いコースになっておりますので、「TOKYO☆笑BIZ」出身の芸人は「サンミュージックアカデミー」としてカウントされていますし、「日本映画学校」は改組されて「日本映画大学」となっておりますので、「日本映画学校」出身の芸人は「日本映画大学」としてカウントされています。
オーディションなど、養成所を経由せずに芸人になった方々は「なし」としました。ただし、養成所に所属していた事実がないために「なし」となっている方もいらっしゃいます。また、中退した人は中退した人で別にカウントしました。
コンビが同じ養成所に通っていた場合は、当然ながらその養成所に2人カウントされます。コンビで異なる場合は、それぞれの養成所に1人ずつカウントされます。
例
ひとりで複数の養成所に通っている場合は、それぞれの養成所に1人がカウントされます。
例
個人でカウントしているため、細かな部分で情報が間違っているかもしれません。とりあえずの参考程度にご覧くだされば幸いです。それでは参ります。
まずは決勝進出者一覧からです。
漫才大会合計の数が2大会出場者の単純な足し算ではないのは、どちらの大会にも出場している芸人がいるためです。つまり、M-1かTHE MANZAIの少なくともどちらの決勝に進出した経験のある芸人がカウントされています。
続いて、優勝者の出身養成所一覧です。
漫才大会合計数が実際の足し算と異なるのは決勝進出者と同様です。
さて、いかがでしょうか。現在のところ、お笑い芸人の数は吉本興業が他を圧倒しており、その勢力図を反映してかM-1の決勝進出者および優勝者は吉本興業が大半を占めておりますけれども、出身養成所となると思ったよりもNSC出身者が少ない印象です。
NSCと同程度に多いのは「なし」、つまりオーディションやスカウトなど、養成所に入らないまま芸人になった方々です。特にオーディションは昔から存在している、芸人になるためのルートのひとつでございまして、養成所の運営と並行してオーディションを開催している事務所は少なくありません。大学お笑いを始めとする、アマチュアのお笑いが盛んになっている現在では、アマチュア時代の実績を引っ提げて事務所の門戸を叩く場合もございますし、アマチュア大会での活躍を見て事務所がスカウトすることもございます。また、金銭面や地理面での理由により養成所へ入れなかったり、そもそも養成所を嫌がったりして、別ルートで芸人を目指す方もいらっしゃるようです。
ところで、それぞれの大会におけるNSC出身者率はどれくらいでしょうか。試しに計算してみました。NSC中退者はどうするか迷いましたが、今回はNSC以外にしました。ちなみに中退者自体、数が少ないので、どちらに入れても数値に大きな影響はございません。
計算結果は以下の通りです。
M-1は優勝者ですら半分がNSC出身者で占められています。ただ、この数値を高いと見るか低いと見るかは判断が難しいところです。養成所の中では歴史が長く、規模も他の養成所とは桁違いに大きいNSCにしては低いように見えますし、ひとつの養成所出身者がこれだけ占めるのは充分に多いと見る方もいらっしゃるでしょう。
他の特徴として、THE MANZAIはM-1に比べてNSC率が低くなっている点がございます。M-1とTHE MANZAでなぜこれだけの差が出たのかは現時点では分かりかねますけれども、興味深い結果ではございます。ひょっとすると、出場資格や審査システムの違い、時代背景などが影響しているのかもしれません。
となるとです。M-1も2010年以前と2015年以降では出場資格に大きな差がありますし、時代背景や審査方法も少しずつ変化してきました。このふたつの時代におけるM-1に違いはあるのでしょうか。念のため、2010年以前と2015年以降で分けて調べてみました。
まずは決勝進出者数から。
続いて、優勝者です。
それぞれのNSC率は以下の通りです。
2015年以降の方が、NSC出身者の成績が良いことが分かります。冒頭の「M-1優勝者にNSCが少ない」発言を耳にしたのはここ数年の話だったのですが、この数値だけを見ると別にそんなことはないように思います。ただし、NSCに出ているからと言って吉本興業所属とは限らず、錦鯉の渡辺さんのように他の事務所へ移ってから好成績を残している方もいらっしゃいます。吉本興業の人間としては、NSC出身者とは言え他事務所で優勝されては胸中複雑なはずで、それを踏まえての発言だったのかもしれません。
ところで、他の大型賞レース、具体的にはR-1、キングオブコント(以下「KOC」)、THE W、THE SECONDのNSC率はどうなのでしょうか。気になってしまったので、調べてみました。まずは、それぞれの決勝進出者における出身養成所一覧です。
続いて、優勝者の出身養成所一覧です。
これらを踏まえて、各大会のNSC率を計算しました。比較として、先ほどのM-1とTHE MANZAIの数値も併記します。
まだ1回しか開催されていないTHE SECONDの優勝者NSC率100%はご愛嬌としても、どの大会もNSC率はかなりの高水準となっています。
しかし、漫才の大会だけは決勝進出者より優勝者のNSC率が低いんです。つまり、決勝進出者が優勝するのにNSCはちょっとだけ苦戦している。これがどういうことなのかは数値だけでは判断できかねますが、こちらもなかなか興味深い結果となりました。
今回は以上となります。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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