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夢の国は気にしない

 その昔、友人とディズニーシーに行った時のことです。開園前から入口に並び、閉園まで遊び倒す計画でした。

 開園と共に人気アトラクションに乗り、私は早くもテンションが上がっていました。続いて、とあるステージを見ようという話になりまして、好運なことに結構いい場所を確保できました。油断する条件がそろっていたとも言えます。

 いい場所を確保できた私は上機嫌でその場にしゃがみました。するとお尻のほうからビリッという嫌な音がしました。実際にお尻を触って確信、ズボンが破れてしまい、親指と人差し指で作った輪っかくらいの穴から下着がハッキリと見えるようになってしまいました。

 どうしようかと慌てる私に友人はこんなアドバイスをしてきました。「堂々としてろ。どうせみんな他人の尻になんか興味ない」。

 何しろここは夢の国ことディズニーシーです。みんな夢の国を見に来ているわけであって、私の下着を見に来ているわけではありません。私、なるほど一理あると納得しました。

 一応、上着を腰に巻いてお尻を軽くガードはしておきました。風が吹けばめくれ上がり、一瞬ズボンの穴が見えはするんですが、周囲の誰もが夢の国に夢中で他人のズボンの穴を見つける余裕のある人がいないんです。事実、誰からも「穴があいてますよ」と指摘されることないまま、徐々に辺りは暗くなって参りました。夜になればズボンの穴なんてますます目立たない。ラスト3時間くらいは自分のズボンに穴があいていることも忘れて夢の国を楽しみました。

 帰りの電車は若干不安ではありましたが、よくよく考えれば夢の国にいようといまいと、みんな私の下着になんか興味がないんでした。というわけで、難なく家まで辿り着いた私でありました。

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」じゃないですけど、家で落ち着いて考えてみると、ひょっとしたら上着を腰に巻かなくても何とかなった気がしてきたんです。ズボンと同じ色の下着をはいていた日には、ズボンのお尻部分にそこそこの穴が開いていても、誰にも気づかれずに平然と遊んでいられるんじゃないかと。

 ズボンに穴があくことを前提に下着の色を選ぶだなんて、新しいタイプの変態みたいじゃないですか。すぐ我に返れた辺り、我ながらだいぶ大人になったものです。

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