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トイレによく分からないこだわりを持っていました

 どうでもいいんだけど、なぜかやたらこだわってしまうことありませんか。私はあります。もう子供の頃からです。

 小学校4年生だった時の話です。こんな具体的に覚えているにはわけがありまして、私が通っていた小学校はなぜか4年生だけ違う校舎の教室と決まっていたんです。

 その校舎は一番最近にできたこともあって、隅々まで綺麗でした。だからなのかは知りませんけれども、変なこだわりが生まれました。同じ小便器しか使わないというこだわりです。

 最初はたまたま同じ小便器ばかり使ってるなあとは思ってました。そこでこう思ってしまったんです。「今年1年はここでいこう」と。それからはいつもおしっこは同じ小便器でするようになりました。他の校舎にいようがグラウンドで遊んでいようが催してきたら同じトイレの同じ小便器まで駆けていって用を足す。もちろん、他の人が用を足している時は空くのを待ちます。ただ、他に小便器が開いているにもかかわらず用を足している人の真後ろに立って謎のプレッシャーをかける度胸なんて持ち合わせてはいませんから、一旦は何もせずに外へ出て、用を足していた人が出てきてから再びトイレに入るという面倒くさいことをしていました。

 そんな無駄な努力をして1年間貫き通せたのか。結論から申しますと、貫けませんでした。別の小便器を使ってしまったのは3月の終業式の日、つまり最終日に失敗するという漫画のような展開です。そんな漫画見たことありませんが。

 その日は終業式ということもあってか、トイレが混んでいました。尿意とトイレの込み具合から、私は「違う小便器でもやむを得ない」と判断、いつもの小便器の隣にある小便器で用を足しました。

 大した目的もない、どうでもいいこだわりでしたから、当時も「まあいいか」と思った記憶はあります。ただ、何十年も経った現在でも覚えているところを見ると、ラストのラストで達成できなかったことが印象深かったのかもしれません。

 それからは「同じ小便器で用を足す」みたいな謎ルールを自らに課すことはなくなりましたが、それでもつい似たようなことをよくするんです。例えば、似たような時間に家を出て、同じルートを歩いて駅まで行き、ホームの同じ場所で電車を待つ、なんてことくらいは当たり前のようにやっている。友人からは「猫みたいなやつだな」と言われました。猫も同じ時間に同じ道を通って縄張りをパトロールしてるみたいなので、確かに気は合いそうです。

 ただ、私はあの頃とは違います。半ば無理やり同じトイレを使っていたあの頃の私がもし某国の工作員に狙われたら、こんな楽なターゲットはいなかったでしょう。私がいつも使う小便器に爆弾を仕掛ければ楽勝ですし、なんなら私がいつも使う小便器に工作員自らが潜み、私が用を足しにきたところを一撃加えればいい。下半身丸出しのままトイレに倒れる私を工作員が確認したところで任務終了です。しかし、繰り返しになりますが、私はあの頃とは違います。たまにわざと出勤ルートを変えたりとか、違う電車に乗ったりとか、そうやることによって、いつ某国の工作員に狙われても生き延びる率を上げるように心がけています。

 だからあの頃よりちゃんと成長している。そう思い込みたいところですが、根拠が貧弱すぎて思い込めません。まあいいや。

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