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言葉遣いから見る 芸人が今までで一番スゴいと思ったコメント

 1月17日放送の水曜日ダウンタウンにて、「芸人が今までで一番スゴいと思ったコメント調査 第3弾」が放送されました。一線で活躍している芸人が、すごいと思ったコメントを紹介する企画でございます。

 そこで思ったんです。一線で活躍する芸人がすごいと思うコメントとはどういうものなのかを。

 せっかくなので実際のコメントを抜粋し、どこがどんなふうにすごいのかを、主に言語表現の方面から探ってみることにしました。

 まずは大前提としまして、企画で取り上げられたコメントは以下のものを満たしています。

・表現に過不足ない
・タイミングが適切である
・笑えるようになっている

 表現が足りないと自分の言いたいことが相手に伝わりません。だからといって多すぎても言いたいことがぼやけてしまいますし、相手が聞く耳を持ってくれません。

 また、言うべきタイミングを間違えては、素晴らしい表現も効果を発揮しません。いくら素晴らしい愛のうたでも、告別式で披露したらいろいろと台なしになってしまいます。ベストなタイミングでベストな言葉を叩き込んでこそ、コメントが最大限に効果を発揮できるわけです。

 そして、お笑い芸人ですので、ちゃんと笑えるように仕上げています。ただし、笑えるためには基本的に上のふたつの条件を満たしている必要があり、加えて笑えるための仕掛けを施してあると言えます。

 以上の条件を満たした上で、どこがすごいのか。個人的な印象ではございますが、あれこれ書いて参ります。ただし、ここで紹介する順番は、番組内で紹介された順番とは異なります。また、登場する芸人が敬称略になっている場合がございますので、ご了承くださいませ。

 まずはアインシュタイン 稲田さんプレゼンによる、麒麟 川島さんのコメントです。

JP:(競走馬の)チョウカイキャロルのことをキョウカイキャロル言うてたんで。
麒麟 川島:ああ、発音を。
JP:さい。
東京ホテイソン たける:ウマのモノマネして返事が「さい」。
麒麟 川島:それをキリンに言うっていうね。

 川島さんのコメントの注目点は、説明がなくてもどうにか通じる表現をちゃんと選んでいるところです。川島さんが「麒麟」というコンビで活動していることは、少なくとも番組の出演者や視聴者の大半はご存じなはずであり、それを計算して説明を端折っています。

 また、コンビ名「麒麟」は本来、首の長いほうではなくて空想上の動物でございまして、現実に存在しない分だけ「ウマ→サイ→」の連想ルートからちょっと外れる形になります。しかし、「この流れだったら『キリン』と言えば首の長いほうを連想してくれるだろう」と計算し、特に説明なくキリンを用いたのだと考えられます。

 大前提の中に「表現に過不足ない」と書きましたが、川島さんのコメントは一見すると不足しているわけです。しかし、川島さん自身やキリンの知名度でキチンと補っている。もちろん、計算された表現だと考えられます。

 続いてウエストランド 井口さんのプレゼンによる、くりぃむしちゅー 上田さんのコメントです。

(沈黙が続く)
くりぃむしちゅー 上田:竜王戦か!

 沈黙を別のものに例えたわけですが、何の説明もなくシンプルな例えをいきなり出しています。それでも、上田さんの言いたいことが理解できるようになっている。

 ただし、井口さんも番組内で触れていたように、発想が一段階、踏み込んでいます。静かなものの例えから将棋の対局を選んだわけですが、それだけではまだありきたりだと考えたのでしょう。過去に多くの方々が言ってきたかもしれない。そこで、表現をもっと具体的にして差別化を図った。

 将棋のタイトル戦8つの中から竜王戦を選んだのにも意味があると思われます。将棋のタイトルと言えば竜王・名人・王位・叡王・王座・棋王・王将・棋聖でございます。そのうち、叡王えいおう棋王きおう棋聖きせいは耳で聞いても文字が浮かびにくく、将棋のタイトル戦と思われづらい。更に棋王は「畿央」や「気負う」など別の意味にとらえられかねません。棋聖に至ってはもっと深刻で、「帰省」「寄生」「奇声」など様々な同音異義語がある上、棋聖戦も「規制線」や「紀勢線」があって話し言葉としては誤解が多い単語です。一方、名人・王位・王座は将棋以外でもしばしば使われる言葉であり、単独で将棋の例えに用いるのはよろしくない。王将に至っては餃子が出てくる危険性があります。そう考えると、竜王戦は単独で用いても将棋のタイトル戦の例えとしては最も誤解が少なく、通じやすい言葉です。そこまで考えての竜王戦だったのだと思われます。

 続いてはサバンナ 高橋さんのプレゼンによる、ケンドーコバヤシさんのコメントです。

ケンドーコバヤシ:こんなに新宿区を煮詰めたような人間いるんですね。

 ホスト経験のある格闘家YUSHIさんを例えた言葉です。プロフィールと外見からこのような表現を編み出したのだと思われます。

 何か新しい表現を目指すのは大切ではございますけれども、あまりこねくり回してしまうと初見では理解しにくくなってしまう危険性があります。その危険性が少ない方法としては「普段使われている言葉を普段使わない形で用いる」というものであり、ケンドーコバヤシさんのコメントはその好例と言えます。

 「新宿区」を「煮詰める」なんて組み合わせはなかなか見ないですが、初めて聞いた人でも何となく言いたいことが分かる。「普段使われている言葉を普段使わない形で用いる」ことは、独自性がありつつも人に通じやすい表現にするなかなかいい方法であるのは確かですが、当然ながら組み合わせ次第では訳が分からなかったり、逆に平坦すぎる表現になってしまう場合もございます。ケンドーコバヤシさんのコメントはそのどちらでもない表現となっています。

 続いてはずん 飯尾さんのプレゼンによる、有吉弘行さんのコメントです。ひとつ目はこちら。

有吉:ブ男はブ男なりの身の丈にあったファッションをしなきゃいけない。

 一見すると単なる辛辣なコメントなんですが、実はよそでは見られない、オリジナリティのある表現となっています。「ブ男」「身の丈にあった」「ファッション」という、日常的に使われておかしくない言葉を組み合わせて独特な表現を作り上げている。しかも、先のケンドーコバヤシさんとは異なり、より自然な感じになっている。

 このふたりの違いは何なんでしょうか。理由はいろいろ考えられるでしょうが、大きな要因は芸風の違いだと思います。

 有吉さんは毒舌を売りにした芸風で知られ、上記のコメントを口にした頃は2度目のブレイク真っ只中であり、毒舌のキレが今より鋭い時期でございました。毒舌の特徴として挙げられるものの中に「本来ならば触れないでおくところを敢えて言う」というものがあるかと存じます。当然、婉曲的な表現よりは直接的な表現のほうが真実味があってウケやすい。そして、そんなスタンスを続けていれば、当然ながら直接的な表現の使い方に磨きがかかるでしょう。一方、ケンドーコバヤシさんは特に毒舌を用いる芸風ではありません。この差なのではないかと思われます。

 有吉さんのもうひとつのコメントもそうです。楽屋に加湿器を何台も置き、蒸気の中に黒い影だけが見える状態の松本さんを称して言ったものです。

有吉:お前、肉まんか。

 坊主の男性が蒸気の中にいることを例えており、こちらも直接的な表現ではあります。単純に、例えの中からよさそうなものを選んでいる。ただし、直接的だろうがひねったものだろうが、当然ながらいいものと悪いものがあるわけで、手法自体に良し悪しはございません。

 続いては鬼越トマホーク 金ちゃんさんのプレゼンによる、霜降り明星 粗品さんのコメントです。

見取り図 盛山:NEXT東ブクロやないか、お前は。
霜降り明星 粗品:NEXCO東日本みたいに言うな。

 事前に登場した単語と発音は似ているけど意味は全く違う言葉を選んでいる形です。そういう意味では、ダジャレに似ています。

 ただし、ダジャレにしては文字数が長いです。当然ながら、長い単語ほど似た単語を探すのが難しくなる。ちゃんと世の中に存在している単語となればなおさらです。元となった言葉「NEXT東ブクロ」は平仮名に換算すると10文字でございまして、似た言葉を探すとなるとかなりの難易度になると思われます。それをパッと、しかもちゃんと世の中に存在している言葉を持ってくるところに粗品さんのすごさが現れています。

 続いてはモグライダー 芝さんのプレゼンによる、ダウンタウン 松本さんのコメントです。

ダウンタウン 松本:これスーパーの魚目線やん。
ダウンタウン 浜田:オバハンが買いに来た感じするわ。

 西野未姫さんが太っていた頃、下からのアングルで撮った写真を見ての発言です。

 注目点は芝さんもおっしゃっている通り、「目線の違い」でございます。写ってる人について言うのではなく、写している側の視点に立っている。

 加えて重要なのは、それを一瞬で分かってもらう表現にしているところです。写している側になるとして、問題になってくるのは「何になるか」だと思うんです。当然、多くの人に分かるものになるのがいい。となれば、日常よく見かけるものがベストでしょう。そこで持ってきたのが「スーパーの魚」だったのだと思われます。

 更に松本さんのコメントから一瞬でいろいろ察した浜田さんがするコメントは、補足としてうまく機能しています。

 続いては見取り図 盛山さんのプレゼンによる、千鳥 ノブさんのコメントです。

千鳥 ノブ:黒い部分がないから、たぶん毛を処理されてるから肌色やけど、あれはもう根元なのよ。根。陰根いんね
千鳥 大悟:陰根はテレビ、ダメ。

 温泉に入っている男性が、ちょうど「そのもの」の部分が隠れているため、股間にモザイクを入れず放送したことに対してのコメントです。「映ってないからそのままでいいだろと判断したのかもしれないけど、これは映ってるようなもんだよ」という意味で言っているわけですが、もちろんポイントは陰根という造語です。

 番組内でも語られている通り、「陰茎」が由来となっていることは間違いないでしょう。陰茎の根元だから陰根という言葉を急遽作り、特に説明しなくても通じると踏んでいきなり言った。その判断が成功だったのは言うまでもありません。もちろん、陰茎という単語があったからこそ通じたのでしょう。

 根を「ね」と読んだのは、直前にと言ったことが関係しているとは思われます。事前にと言ったのだから、陰根いんねと言ったほうが通じやすいだろいうとの判断です。ただ、もうひとつ理由があると考えられます。それはこんと読んでしまうと「男根」を連想させる人がいる可能性を考慮したのではないかという点です。

 そもそも言及している対象が放送禁止の危険性を孕んだものでありますから、表現には細心の注意を払う必要がある。「そのもの」に言及するのはなるべく避けたい。だから、「陰茎」という言葉は避けて「陰根」という造語を使ったわけですが、これだけで充分に意味が通じるどころか、これ以上「そのもの」らしさが単語に備わってしまうと行きすぎに感じた。だから、「」と言うことで、品性をギリギリ保った可能性がございます。「陰根」という言葉は、そんな微調整の賜物と言えるでしょう。

 野々村友紀子さんのプレゼンによるハリウッドザコシショウさんのコメントはシンプルにいいコメントですので、今回は割愛いたします。

 本日の更新は以上となります。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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