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癖で人工薄毛

 最初はただ髪を触るだけの癖だったと思うんです。小学校に入った辺りの頃は。授業中、ノートを取りながら触っていたんです。

 それが指先でクルクル回すようになり、毛と毛をコマ結びで縛ってみたり、爪で挟んで毛を引っ張って髪質を変えてみたりと、徐々に変化を遂げていき、最終的には「髪の毛を1本抜く」まで辿り着きました。たぶん中学生の頃だったと思います。どうしてそうなったのかはよく分かりません。後にストレスで自分の髪を抜く行為に走る方がいらっしゃると聞きましたが、どう考えても当時は強いストレスにさらされていたとは思えないんです。ただただ抜いてた。本当にそんな感じです。

 抜いた毛はとりあえず触ってみたり、もう1本抜いて結んでみたり、生産性のないことをいろいろやっていました。授業中にだけやる癖とは言え、学生にとって授業は日常です。毎日のようにある。だから毎日のようにプチプチやっていました。当然の結果として、髪の薄いところが出来てきたんです。

 さすがに焦りました。「髪の毛ってやっぱ有限なんだ」と当たり前の事実に気づいた瞬間でもあります。薄くなったのは前髪の生え際から数センチ奥に行った辺りで、幸いにも周囲の髪の毛をかき集めればどうにかなります。とりあえず、それで急場を凌いだんですが、何しろ癖は身体に染みついているから癖なのであって、ヤバいと思っていながら授業中に髪を抜くんです。しかも、わざわざ薄くなったところから。

 それでも、誰も私の髪になんて注目していなかったのか、人工薄毛を指摘されることはありませんでした。それも逆によくありませんでした。何とかなるもんだと思ってしまい、授業中にプチプチやってしまっていたんです。

 当時、私は散髪を、近くに住む友人のお母様が経営する理髪店で済ませていました。プチプチやっていた時も普通に理髪店へ通っていましたし、特に何も指摘されない日が続いていました。しかし、この日、友人のお母様がくしで私の髪をとかしていると、一瞬だけお母様が腕を止めました。そうです、くしでとかした拍子に、私の人工薄毛があらわになったんです。

 私はお母様が何を言ってくるのか内心ドキドキしていましたが、お母様は何も言わずに再び髪をとかしはじめました。しかも、さりげなく私の人工薄毛を隠すようにとかしたんです。

 私としては、気を遣われたことが指摘されるよりも応えまして、それ以降、髪の毛を抜かなくなりました。幸いにも毛根は元気だったので、そのうちに私の人工薄毛は解消され、現在に至ります。

 よっぽどショックなことがないとなかなか癖は治らない。そういう意味では、癖ってなかなか強力なものなのだと痛感した次第です。

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