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すれ違いたい

 人とすれ違うのが苦手なんです。前から来る人をよけようとすると相手も同じ方向によけようとする。だから反対方向によけようとすると相手もまた同じ方向によけようとする。じゃあ立ち止まればいいだろうと思うと相手もまた立ち止まる。そんなことを週1回くらいのペースでやらかしていました。

 別にそれでトラブルになったりはしないんですが、やっぱりちょっと申し訳ないわけです。数秒から数十秒の出来事とは言え、相手に手間取らせてしまうわけですから。どうにかして防げるならば積極的に防いでいきたい。

 しかし、気をつけていてもなかなかうまくすれ違えないんです。「気をつけて」なんて書きましたけれども、どこをどう気をつければ防げるのか分からないまま、漫然と相手の動きを注意して見ているだけですから、すれ違い技能が向上するわけがないんです。何か画期的な解決法を見つけない限り、私はいつまで経っても満足に他人とすれ違えない人間のままです。

 何人もの知らない方々とすれ違いを失敗しているうちに、うまくすれ違えない理由が何となく分かって参りました。私がすれ違えないのは、相手がどちらによけるのか見ただけでは判断できないからです。そして、恐らくは相手から見た私もまたどちらによけるのか判断できない格好になっているはずなんです。だから、私も相手も勘でよける方向を決め、互いに異なる方向によけれればすれ違えますが、互いに同じ方向によけてしまうとすれ違い失敗となるのでしょう。

 となれば、私がどちらによけるのか相手に分かればいいんです。私が編み出した解決法は「自分がよけたい方へ身体をちょっとオーバーに向ける」です。効果はてきめんでした。私がよけたい方へ身体を向けると、相手はその逆のほうを歩くんです。こんなにもハッキリと結果が出るなんて。

 ぼんやり歩いていると編み出した解決法をし忘れてしまい、未だにすれ違いに失敗することもありますけれども、漫然とすれ違っていたときに比べて随分とすれ違いがうまくなりました。私としては大きな進歩だと思ったんです。

 でも、よく考えれば普通の人はきっと歩行できるようになった辺りで自然に身に着く技能なんですよね。私の進歩は一般人から数十年は遅れているようです。

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