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当事者同士だからこそ通じる心

 病気になった時、その気持ちが最もよく分かるのは、同じ病気の人だと思うんです。もちろん、中には人の気持ちがものすごく分かるエスパーみたいな人もいらっしゃいますけれども、基本は当事者同士のほうが理解は容易だと思います。当事者同士であればエスパーでなくても具体的な症状とか不便な点とかが一発で分かる。何なら同じ病気というだけで、初対面でも隠れキリシタン同士が出会ったかのように、互いに多くのことを理解し、固い握手のひとつでもしたくなるわけです。

 それは別に重い病気とか深刻な症状でなくてもいいわけです。風邪とか腰痛とか、日常的な病気でも当事者同士ですとどこか分かり合えたような気になる。病気の話が最強の雑談ツールになるわけです。「君も痔だったのか!」なんて言い合いながら陽気にハイタッチする光景が今日もどこかで見られているに違いありません。

 先日の話でございますが、私は夏の暑さに耐えようとエアコンの前を陣取り、涼を取っておりましたところ、涼を過剰摂取してしまったのかスッカリ喉を傷めてしまいました。咳が出るし、喉も痛い。夏カゼ半歩手前の状態です。

 まあ、日常生活に問題はございません。普通に仕事へも参りました。しかし、病気というものは思わぬところで悪さを始めます。

 急用で取引先へ電話をしようとしていたんです。もう受話器を取った時には、身体に異変が起きていました。さっきまでは何ともなかったのに、突発的に咳が出始めたんです。ただ、もう受話器からは呼び出し音が聞こえる。何より急用です。電話を一旦切るという選択肢はございませんでした。

 とりあえず、「星野と申します。いつもお世話になっております」と普段通り挨拶をしようとしたんです。しかし、いくら頑張って耐えようにも、挨拶の隙間隙間に細かな咳が出てきます。何なら咳を出さないよう喋るために、言い方も苦しそうな感じになってしまいます。電話の相手に不信感を持たれはしないか、それだけが気がかりでした。

「いつもお世話になっております」

 相手の女性の話し方を聞いて私、ピンと来たんです。挨拶と挨拶の合間に小さな咳が入っていますし、話しぶりはどこか妙に苦しそう。これはまさか、相手も同じ状況ではございませんか。

 つまり、こういうことでしょう。相手の女性も猛暑に耐えかねてエアコンの冷風を浴びに浴び、喉をしっかりと傷めてしまった。しかし、仕事には支障がない、体調不良にも満たない状態です。出勤し、仕事を始めたものの、突然の咳、それと共に襲い来る外線電話。反射的に電話へ出たものの咳は止まらない。なんとか耐えての対応を強いられる羽目に。

 私としては、電話の相手と握手したい衝動に駆られました。多分、相手も私の不自然な話し方からいろいろ察し、私と同じ衝動に駆られていたに違いありません。とりあえず、今はそういうことにしておきます。

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