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とにかく馬鹿な慣用句

 大概のものは知り尽くしたとたかをくくっていると、まだまだ知らないものが続々出てくるのが慣用句の類です。これまでの人生で使っているところを見たことないものもザラです。スポーツでも芸能でも、みんなに知られている超メジャーな人は一握りであり、圧倒的大多数の方々はほぼ誰にも知られていなかったりしますけれども、慣用句もまた同様みたいです。

 さて、深刻な格差問題が続く慣用句の世界ですけれども、どうも誰かを馬鹿にするタイプの慣用句が多いなと思ったんです。この手の慣用句でメジャーなものと言えば「馬の耳に念仏」とか「井の中の蛙大海を知らず」、「目糞鼻糞を笑う」辺りでしょうか。「独活うどの大木」「木を見て森を見ず」「三日坊主」なんかもメジャーリーガーだと思われます。

 慣用句の宿命と言えばそれまでなんですが、どれも婉曲な感じがしませんか。あんまり直接馬鹿にするような言葉ではなく、何かに例えて暗に馬鹿にしている感じがする。意味を知らない人が聞いたら「何を言ってるんだこの人は」ってなるでしょうし、何だったら本当に馬へ念仏を唱えている人がいると思うかもしれない。

 マイナーな慣用句も同じ傾向のようです。「浅瀬に仇波」「牛に対して琴を弾ず」「遼東のいのこ」などもまた、何かに例えて馬鹿にしています。「大男総身に知恵が回りかね」「縁なき衆生は度し難し」のように割と直接的なものもありはしますが少数派ですし、何より言い回しが現在の日常会話っぽくなく、婉曲さは残っているように感じます。

 もっと掛け値なしに他人を馬鹿にしたような慣用句はないものでしょうか。慣用句の数は膨大ですから探せばありそうなものですが、膨大であればあるほど見つかる可能性が高まると同時に探すのが面倒くさくなる。私の慣用句調査の旅は始まる前から終わった状態でした。

 果たして私が望む慣用句は存在するのか。そんな疑問を慣用句に詳しい友人に言ったところ、「お客さん、いいものがありますよ」と非合法なものを融通するかのような言い草で教えてくれました。それが「阿呆の鼻毛で蜻蛉とんぼをつなぐ」です。嘘かと思って検索したら本当にありました。

 もう冒頭で「阿呆」と言っちゃってる辺りもポイントが高いですが、鼻毛でトンボをつなぐ様子は一目で馬鹿と分かる光景です。一点の曇りもない馬鹿であり、これを馬鹿にせずに誰を馬鹿にするかと言い出す人がいても驚かないレベルです。最近になってそこら辺の人が適当に考えたのかとも思いましたが、慣用句になっているところを考えると、それよりも前に生まれたものだと思われます。

 なんか探したらもっと馬鹿な慣用句が出てきそうですね。「阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ」からは慣用句業界の底力を感じました。

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