見出し画像

貴重でも何でもない

 その昔、長期休みに実家へ帰っていた時の話です。私の他にも姉家族が帰省の最中でして、当然ながら私は甥っ子の遊び相手としてこの身を差し出すことになりました。

 子供の遊び相手ってのはなかなか体力のいる任務です。当時の甥っ子は確か3歳かそこらでした。もうやることなすこと全て楽しいみたいで、ゲームを始めたかと思えば庭に出てボールをあっちこっちに蹴りまくり、そうかと思えば私の肛門にこぶしを突っ込もうとしたりと、無作為に暴れるので本当に油断ができず、全力で遊び返してやろうと頑張れば頑張るほど心身が消耗してまいります。

 甥っ子と一緒にゼーゼー言いながら暴れているとようやく夕飯の時刻となりまして、甥っ子は一旦大人しくなりました。と思ったのも束の間、夕飯中にもどこかへバタバタ走って行っては戻ってくる。この落ち着きのなさが子供ならではです。で、こんな時にこんな話をするのも何なのですが、ご飯を食べている時になってようやく自分が長らくトイレへ行っていないことを思い出しました。ええ、要するにもよおしてきたんです。

 そそくさと席を立ちましてトイレに向かいますと、電気はつけっぱ、ドアは開けっぱ、便器のふたも開けっぱで、更に便器には出したてホヤホヤのあれが放置されてたんです。誰の仕業か知らないけれども、なんてマナーのなってない状況でしょうか。とりあえず水を流して自分も用を足し、席に戻ると早速、先ほどの惨状をみんなに報告です。誰の仕業かと思っていたら、母があっけらかんと「あー、せっかく取っておいたのに」とか意味不明な供述をするんです。

 どうもあれは甥っ子が初めてひとりでトイレができた証拠だったようで、いろんな人に見せようと取っておいてそのまま忘れたみたいです。母は軽く私を責めましたが、「あんなもんいつまで取っておくつもりだったのか」とか、「どれだけ貴重だろうがうんこはうんこだろ」とか、「一体どんな形式でみんなにお披露目しようと思ってたんだ」とか、そういういろんな文句を言ってもしょうがないので私はそのまま夕飯を食べました。今でも流したことに後悔はありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?