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平均から大きく外れたアルハラ

 どんなに普通の人だって、全てが平均的なわけがないんです。自分は普通だと思っている人でも、テストのたびにちょうど平均点を取れる人はまずいない。大体は平均の上か下に点数がブレるはずで、ずっと平均点を取り続ける人は、それはそれで異様な存在です。つまり、誰だって普通じゃない要素がある。もちろん、この文章をお読みのあなたもそうですし、私だってそうなんです。皆様のことを何も知らずに書いていますけど、たぶんそうです。

 世界にはお酒というものがあります。楽しい会話を成り立たせてくれるものである一方、多くの人に迷惑をかける場合もあるという、ハッキリとした功罪のある物質です。私が子供の頃には、既に大学の一気飲みや企業での飲酒強要などが問題になっていました。

 私の地元のような田舎ですと、昔は相手が人間であれば何歳であろうが構わずお酒を勧める中年男性が何人もいらっしゃったようです。しかし、時代は変わり、お酒の強要は下手すりゃ裁判沙汰に発展する行為となった。ですから、「あの人は昔だったら誰だろうと平気でお酒を勧めていただろうな」と思わせるほど豪快な方だろうと、少なくとも未成年にお酒を飲むよう迫ることはありませんでした。

 実家の近所に住む同級生の友人、ここでは西田君としておきますけれども、西田君のお父さんも同様でした。西田君のお父さんは、真冬に外で上半身裸になって乾いたタオルで皮膚をゴシゴシする謎の健康法「乾布摩擦」を更に意味不明は方向へ発展させ、びちゃびちゃに濡れた布でゴシゴシするという拷問じみた健康法「水布摩擦」を開発し実践するような豪快人間でありましたが、硬い職業に就いていたせいもあってか、どれだけ酔っぱらっても他人にお酒を強要することはありませんでした。

 しかし、父親の豪快さをしっかり引き継いだ西田君は別でした。西田君とはいわゆる家族ぐるみの付き合いをしていて、私が子供の頃は二家族で食事をすることもしばしばありました。当然、大人たちがお酒を飲む時もあった。そんなある日の食事会でのことです。大人たちが酔っぱらって子供たちから目が離れてくると、西田君は大人たちの目を盗んで空のお猪口に日本酒を注ぐとまずはにおいを嗅ぎ、それからペロッと舐めたんです。そして、私のところへ来て言うんです。「お前も飲めよ」。

 当時10歳、大人をフラフラにさせる何だかよく分からない液体よりも目の前のからあげに夢中だった私には、何ともありがた迷惑なお誘いです。そこは幼馴染、気心が知れた仲ですから速攻で「いや、いいよ」と断ったんですが、西田君の猛攻は止まりません。「いいから飲めって」「ぜんぜんいけるから」。何がどういけるのかには触れず、ただただ飲酒を勧めてきます。これは受けないと終わらないなと思いまして、とりあえず飲むフリをしたところ、西田君は満足したようで、このやりとりは終了いたしました。

 ちゃんとお酒が飲めるようになってから、1回だけ西田君とサシで飲んだことがあります。私は、特に根に持っているとかではなく、本当にただの思い出を語るノリで、西田君にお酒を飲むよう勧められた時の話をしました。西田君は「あの時は俺も初めて飲んで調子に乗ってたんだ」と苦笑いでした。大人になった西田君は豪快さが影をひそめ、お父さんよりも落ち着いてしまいましたから水布摩擦なんてやりませんし、他人にお酒を強要するような人でもなくなっていました。

 そんなにお酒を飲まない私でも、付き合いでいろんな方とお酒を飲んできました。ただ、たまたま運が良かったなのか、飲酒を強要する面倒な人と出会った経験はありません。強いて言うなれば、あの時の西田君だけです。

 つまり、私は10歳児にだけ飲酒強要されたという、よく分からない方向へとがった経歴があるんです。完全に普通な人間なんてありえない。皆様も探せばご自身の変なとがりが見つかるはずです。

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