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笑いに関する名言集――死と笑い

 この世には名言があふれ返っておりまして、様々な名言集、時には名言辞典なるものが売られています。しかし、笑いに関する名言となると意外にないものですから、私がこうやってチマチマ集めてはまとめている次第です。

 ここでは笑いの名言を以下のみっつのどれかに当てはまるものとしました。

・笑いに関係する言葉が入っている名言
・笑いに関係する仕事をした人の名言
・笑う余地がある名言

 笑いは、一見すると何の関係もない、それどころか相反しそうなものにも普通に潜んでいることが珍しくありません。例えば、死がそれでございまして、今回は死について触れている名言に限定してみました。

 まず最初はこちら。

泣くことも笑いも、愛欲も憎悪も長くは続かない。一度死の門をくぐれば、それらはもはや関係ない。
アーネスト・ダウスン(1867-1900)、「命短し」

座右の銘(里文出版、2009)、名言 人生を豊かにするために(里文出版、2011)

 ダウスンはイギリスの詩人で、いわゆる「デカダン派」に属していると見なされています。詩の他にも小説を残しております。

 ウィキペディアによりますと、22歳の時に飲食店オーナーの11歳の娘に恋をし、娘が15歳の時にプロポーズをして失敗、更には酒と病気と両親の自殺が追い打ちとなり、32歳でこの世を去ったとのこと。

 名言を遺した人物を知ると、名言自体の印象がガラッと変わるものですけれども、ダウスンの言葉はその典型となっています。

 続いてはこちら。

運命をはねつけ、死を嘲り、野望のみをいだき、知恵も恩恵も恐怖も忘れてしまう。お前たちもみな知っているように、慢心は人間の最大の敵だ。
ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)、「マクベス」

世界名言辞典(明治書院、1966)

 ご存じ、イギリス文学のビッグネームことシェイクスピアの名言です。

 「マクベス」は主人公のマクベスが主君を暗殺して王位に就くも、重圧でおかしくなってロクでもない政治を展開、それにより他の貴族らに倒されるというお話で、シェイクスピア四大悲劇のひとつに数えらえています。

 有名な作品の有名な一文な上に、「慢心は人間の最大の敵」という言葉が多くの方の心に刺さっているようで、検索すると様々なサイトで紹介されています。

 ここからしばらく、文学作品からの名言が続きます。

されど人生いくばくもあらず。うれしとおもふ一弾指(いちだんし)の間に、口張りあけて笑はずば、後にくやしくおもふ日あらむ。
森鴎外(1862-1922)、「うたかたの記」

世界名言集(岩波書店、2002)

 森鴎外は日本文学のビッグネームでございまして、「舞姫」などの作品で知られています。

 「うたかたの記」は短編小説でございまして、「舞姫」「文づかひ」と共にドイツ三部作のひとつに数えられています。つまり、舞台がドイツのお話です。ちなみに、一弾指は指を弾くほどの極めて短い時間を指す言葉とのこと。

 続いてのビッグネームはカナダ文学からです。

「マシュウが生きていた頃、あなたのわらい声を聞くのがすきだったでしょう?あなたが身のまわりの世界に楽しみを見つけると喜んでいたんじゃなくて?」アラン夫人は、おだやかにいった。「マシュウはいま、ちょっと遠くに行ってしまっただけなのよ。あなたには、これまでと同じように楽しんでほしいと思っていなさるわ。自然が私たちの傷ついた心をなぐさめてくれるのだから、心を閉ざすことはないのよ」
L・M・モンゴメリ(1874-1942)、「赤毛のアン」

赤毛のアンの名言集(講談社、2014)

 モンゴメリは「赤毛のアン」の作者として有名で、カナダ文学を代表する人物のひとりです。

 マシュウはアンの養父でございますが、引き取った時には60歳、心臓を悪くしていました。そんなマシュウはアンが16歳の夏に、全財産を預けた銀行が倒産したという記事を読んでショック死してしまいます。

 アラン夫人はアラン牧師の妻で、アンのよき相談相手でもございます。そんな説明は、上記の名言を読んだ後ではそこまで必要のない話ではございますが。

 続いては中国近代文学のビッグネームです。

生命の路は進歩への路だ。生命は死を怖れない。死の面前でも、笑いながら、踊りながら、滅びる人間を踏み越えて前進する。
魯迅(1881-1936)、「彷徨」より『傷逝』

世界名言辞典(明治書院、1966)、世界名言大辞典 新装版(明治書院、2018)

 魯迅(ろじん)は中国の近代文学の元祖で、中国で最も早く西洋の技法を用いて小説を書いた作家とされています。

 中でも「彷徨ほうこう」は「吶喊とっかん」と並んで優れた小説集と評価されています。「笑いに関する名言」とは言え、やはり死を扱っている名言は多かれ少なかれ悲しみにあふれていますけれども、この名言に悲しみはなく、むしろ力強さを感じさせます。

 ここからは文学を離れた名言となります。

あなたが生まれたとき、周りの人は笑ってあなたは泣いていた。だから、あなたが死ぬときは、あなたが笑って、周りの人が泣くような人生を送りなさい。
ネイティブアメリカンの言葉

明日が変わる座右の言葉全書(青春出版社、2013)

 ネイティブアメリカンの名言もいろいろございますが、中でも上記の名言はかなり有名な方だと思われます。普遍性があり、短い文章ではありますが構成がキチンとしている点が大きいのではないでしょうか。単純にいい言葉ですし。

 いい言葉で終わってもよいのですが、せっかくなので最後はブラックジョーク的な名言を。

棺を鬻(ひさ)ぐ者は歳の疫ならんことを欲す。
劉安「淮南子」

世界名言辞典(明治書院、1966)

 劉安りゅうあんは前漢の皇族であり、学者としても知られます。そして、劉安が学者を集めて編纂させた思想書が淮南子えなんじでございます。

 「思想書」とは紹介いたしましたが、要するに上記の名言は「葬儀屋は疫病の流行を望む」という、とんでもないブラックな名言です。要は、自分さえよければいいという意味のようです。「ひさぐ」という、何だか物凄い字は「売る」と同じ意味と考えて問題ございません。

◆ 今回の名言が載っていた書籍


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