怪鳥音声の館
警告音というものがあるわけです。「いま危険な状況になっているから逃げなさい」という警告もあれば、「ヤバいことになってるから来てください」みたいな警告もある。いずれにしろ、警告音は周囲の人に聞いてもらう必要がございますから、大抵は大音量ですし、音自体もなんか不安を感じさせる、それでいてどの音にもかき消されないような、独特な響きになっているものが多い。とにかく聞こえやすくする。それが警告音のようです。
さて、私は用事でとある住宅地の中を歩いていました。すると、どこからともなく「クエー」という妙な音が聞こえてきました。最初はどこかの家で飼っている怪鳥が飼い主に餌を急かす声だと思ったんですけれども、その割には1秒鳴いては1秒空き、また1秒鳴いては1秒空き、と測ったように正確なリズムなんです。これは何らかの機械による音声だと察しがつきました。
察しはついたんですが、怪鳥の音声を近所に垂れ流す理由が分かりません。近所迷惑を配慮してか、夜でも耳を澄まさないと聞き逃してしまうような音量なのがまた謎なんです。意図せず音が出てしまってるのか、それとも何らかの目的があって流しているのかも分かりません。不明な点が多いけれども、ほどほどの大きさで変な音を出している家があるのは事実です。
それからも何度か、同じ場所を用事で歩く機会に恵まれました。お陰で、どの家から「クエー」と鳴っているのか分かりました。その怪鳥音声の館は、見た目は本当に普通の戸建て、それもどちらかというと新しい建物です。そこから漏れ出す音だけが奇妙な館なんです。しかも、怪鳥音声は毎日出ているわけではないんです。何も鳴らない、どこにでもある館の日もある。
そんなある日です。同じ家からまた音声が流れてきました。ただし、今度は違う音でした。「ビコーンビコーン」という電子音です。音の感じから警告音だと私は察しました。何を警告しているのかは知りませんが、とにかく警告をしている。
しかし、この警告音もまた近所迷惑にならない程度の、ほどほどの音量なんです。冒頭でも書いた通り、警告音はヤバい状況を知らせる目的があるため、周囲の人にある程度は聞こえやすくしてあるはずなんです。仮に、不審者の侵入や火災の兆候なんかを知らせる警告音だったとしたら、近所迷惑にならない大きさでは意味がないわけです。怪鳥音声の館はどうしてほどほどの大きさでしか警告音を出さないのか。そんな音量で何を警告したいのか。疑問ばかりが浮かんできます。
そう考えると、怪鳥音声も警告音の一種なのかもしれません。何しろ怪鳥音声は私が「怪鳥」と思うくらいですから、なんか気味の悪さを孕んだ音なんです。音の量はともかく、音の質は警告音としての役割を果していると言ってもいい。
だったら、数ある警告音の中で、どうしてわざわざ怪鳥みたいな音を見つけ出し、館に設置しようと思い立ったのでしょうか。そもそも、どうして複数の警告音を鳴らす館になったのか。怪鳥音声の館は、今日も私の疑問を増やしにかかっています。