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日米ラーメンズ対決、開催決定か

 確かにちょっと前、ラーメンズの話をしたなあとは思ってたんです。職場の同僚についてなんですけど、仕事の空き時間に簡単な雑談をしてたんです。話の流れで互いの趣味の話になりました。私はお笑いが好きなのでそれを言うと、同僚の女性は「私もお笑い好きなんです」と食いついてきました。「へえ、そうなんですね。誰が好きなんですか?」「ラーメンズです」「おお、自分も好きですよ」。雑談の割にはそこそこ盛り上がりました。

 と申しましても、彼女は私より結構な年下で、テレビや単独ライブでバリバリやっていた時期を生で見ていたわけではなく、のちにネットで知ってどっぷりハマったタイプの人でした。その時は「まあ、そういう人もいるだろうなあ」という感想を抱いた程度で終わりました。

 それから何か月かして、その同僚の女性と仕事をしていますと、また少々の空き時間が発生しました。すると、女性は何だか軽く意を決したような感じで話しかけてきたんです。

「実は旦那が星野さんに興味を持ってまして」
「旦那さんが?何でですか」
「この間、ラーメンズの話をしたじゃないですか。それで旦那が会ってみたいとか言い出して」
「はあ」

 言葉の意味は分かるんですが、いまいち話が飲み込めません。同僚の旦那に興味を持たれた経験もないので、どんな反応をすれば正解なのかも分かりません。戸惑う私を前に、同僚は申し訳なさそうに話を続けます。

「旦那もラーメンズが好きなんですけど、周りにラーメンズの話ができる人がいなくて」
「いやあ、探せば意外といますよ。以前はこの会社にも何人かいましたし」

 そう、探せばいるんです。ラーメンズが好きな人の多くは自分からラーメンズが好きですよと言わないだけで、今でも結構いらっしゃるんです。

「でも、旦那はアメリカ人で、今もアメリカにいるんで……」
「アメリカってあのアメリカ?」
「はい、カリフォルニアで働いてます」

 仕事の内容が全部飛びそうだったのをどうにか耐え、私は頭の中で一生懸命、情報をまとめました。個人情報なので細かいところは書けませんが、同僚はアメリカ人と結婚していて、このご時世のため、現在は離れて暮らしているとのこと。ただし、連絡は毎日取り合っていて、誕生日やクリスマスにはプレゼントを送っているようです。ちなみに日本語は余裕で話せるため、字幕なしでラーメンズの動画を楽しんでいるとか。

「今日は星野さんと仕事するって言ったら『イモムシのアウディは日本人に通じるのか聞いてほしい』と言ってまして……」

 「イモムシ」はこのネタですね。

 確かにアウディに触れるくだりがございます。「全然通じると思いますよ、あの形状だし」と言ったら同僚は「旦那に伝えておきます」と頭を下げました。伝えてどうなるのかは全く想像ができませんでしたけれども、とりあえず私は自分の役目を果たしたようです。

 その時はそれで雑談が終わりました。でも、後になればなるほど、ひとつの不安が沸き上がってきます。「私は同僚の旦那から『ラーメンズに詳しい人』の日本代表みたいな扱いをされていないか」と。

 いや、もちろんそんなはずがありません。大人がそんな勘違いをするわけがない。でも、少なくとも同僚の旦那にとって私は「知り合いの中で最もラーメンズに詳しい日本人」になっている可能性が高い。実際、女性は旦那に「今日は星野さんと仕事するよ」と言うと「じゃあ、あのネタのあの部分をどう思うか聞いておいて」なんてことを言っているようなんです。

 挙句の果てには、「日本に行った時、物陰から星野さんに向かって『Q』って言ったら『A』って答えてくれるかな」とか言っていたようです。それは「QA」のくだりですね。

 いや、「『QA』のくだりですね」じゃないんです。同僚の旦那が何かよく分からない不意打ちを企んでますよ。これはあれですか。受けて立つためにはラーメンズの主要コントのくだりを全て頭の中に叩き込み、いつ振られても返せるように常日頃から構えてなければいけないやつですか。

 よく分からない不安を抱えた私、来るべき日に備えてラーメンズの動画を見返すようになりました。つい先日、その話を同僚の女性にしたところ、「旦那も星野さんと会うのに備えてラーメンズの動画を見返してます」と言ってました。しのぎを削るとはまさにこのことです。

 藤子・F・不二雄の作品に「ひとりぼっちの宇宙戦争」という作品があります。これは普通の中学生が惑星間戦争のため、勝手に地球人代表にされ、無理やり戦わせられる物語ですけれども、私、その中学生の気持ちがちょっと分かりました。

 というわけで、誰も注目していないところで何だかよく分からない日米対決がおこなわれようとしています。

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