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大規模お笑い賞レースは「一斉採点方式」に収束してゆくのか

 大規模お笑い賞レースを漫才限定の「M-1グランプリ」、ピン芸限定の「R-1グランプリ」、コント限定の「キングオブコント」、女性限定の「THE W」の4つとしますと、現状ではM-1が最もうまくいっているように感じられます。参加組数が圧倒的に多く(M-1:6017組、R-1:2710組、KOC:3015組、THW:700組 ※いずれも2021年)、視聴率も好調のようです。

 その理由はいろいろあげられるでしょう。個人的には大会のシステムがよくできているという点が大きいように思われます。単純で明解、そして何よりもなるべく平等になるよう気を配っている。もちろん、現在においても発展途上ではありましょうが、他の大会よりも明確に優れていると考えています。何より勝利条件がハッキリしています。「とにかく面白い漫才」。あとは結成年の制限さえ満たせば誰でも出られる。結成年の基準は休止期間を経て変更されましたが、基本的なルールは変わりません。徹底しています。

 採点方法にもそれが現れています。2001年開催の第1回だけは初回ということもあり、手探りな感じが見て取れます。第1回は審査員がそれぞれ100点満点で審査する他、3会場に100人ずつ集まった一般客がひとり1点で審査をする方式を用いていました。しかし、平等性に欠ける結果が出てしまい、一般客による審査は見直されることとなります。また、最終決戦は上位2組だけでおこなわれていました。

 第2回では審査員がそれぞれ100点満点で審査、合計得点の上位3組が最終決戦として2本目を披露し、審査員の決戦投票によって優勝者を決めるという、皆さんご存じのシステムを確立します。敗者復活枠が設けられるのもこの回からです。以降、審査員の人数やネタ順をくじで決める「笑神籤(えみくじ)」の導入など、細部の変更は見られますが、基本的な採点システムはそのままでやっています。

 ネタを披露するごとに審査員が採点をしてゆく、言わば「一斉採点方式」とでも申しましょうか、この方式はいろいろとメリットがございます。

 まず数値による採点が比較的客観的で分かりやすい、というものがあります。「面白い」「面白くない」だけだと、どれくらいどうなのか細かいニュアンスが伝わりづらい。点数ならば「90点」は誰の目から見ても「90点」であり、同様に「5点差」は誰の目から見ても「5点差」です。数値化することによって、誰がどう評価したのかが見えやすくなります。

 検証がしやすいという利点もございます。例えば、審査員が特定の組を贔屓するような発言があったとして議論になった際、データサイエンティストと呼ばれる数値分析ガチ勢が本当に偏った審査があったのか全審査員の点数を分析し、「そんなでもないんじゃないか」という結論を著作内で出しています(参考:「人は悪魔に熱狂する」松本健太郎 著、毎日新聞出版)。後から分析ができるというのも、採点ならではです。

 また、審査員それぞれの点数が発表される短い間に合計得点が算出されづらいのも番組演出上はプラスに働いていると思われます。つまり、審査員の得点が発表されてから合計得点がバンと出るまでの間、暗算玄人でもなければ「この組は何位なんだ」とハラハラできるわけです。

 何より、平等な感じが強い審査方法だと思われます。例えばトーナメント方式の場合、どうしても対戦相手によって結果が大きく異なってきます。つまり、組み合わせによっては相手に恵まれて最終決戦に勝ち上がってしまう可能性がある。「一斉採点方式」なら相手は関係ありません。言い換えれば決勝に出ている全組が対戦相手であり、全組がほぼ同じ状況で披露します。唯一の懸念材料は「ネタ順」でありますが、こちらは「笑神籤」の導入によって運任せにすることで、より平等性を高めました。

 数値による採点以外にも敗者復活は時にドラマを巻き起こすなど、M-1のシステムは検証すればするほどよく考えられて作られていることが分かります。

 他の大規模お笑い賞レースは後発ということもあり、先輩のM-1との差別化を図る目的もあってか、様々なシステムを試し続ける道を歩むこととなります。以下、かなり大雑把に説明してゆきます。

 2002年に始まったR-1の最初期は、審査員こそいるものの優勝者のみを発表し、それ以外の順位づけはしない方式を取っていました。2005年からは審査員が100点満点で審査するも得点を公表するのは1組につき1人の審査員のみ、順位も最後の結果発表で初めて判明する形に変化します。一時は「一斉採点方式」にするものの、2011年からいきなりトーナメント方式に変更します。今年のR-1では久々に「一斉採点方式」へ戻るも、突如として芸歴10年以内という制限を設けます。

 2008年に始まったキングオブコントは「準決勝で敗退した芸人が審査をする」という形式を長らく取ってきました。準決勝で敗退した芸人はそれぞれ決められた持ち点があり、審査員として採点してゆくという形です。ただし、誰が何点をつけたのかは分からないようになっていました。第1回ではそれに加えて最終決戦の勝者をそれ以外の決勝進出者が口頭で発表するという方式を用いていましたが、議論を呼び見直されることとなります。2014年は突如として1対1で対決する方式を採用しますが、2015年からは「準決勝敗退芸人による審査」と共に見直され、M-1同様、審査員による100点満点での「一斉採点方式」へと変更します。ネタ2本の合計得点で勝敗を決めるのはキングオブコント特有のものです。

 2017年に始まったTHE Wは、今のところとにかく1対1の戦いにこだわっている印象です。最初期は採点方式を用いていましたが、2019年からは面白いと思った組に投票する方式へと変更しています。

 ザックリ書いてもなかなかに複雑な変化をしていますね。しかし、まだ歴史の浅いTHE Wはともかく、他の大規模お笑い賞レースは独自性を出そうともがきつつも、結局はM-1の「一斉採点方式」へ近づいているように思います。やはり他の審査方式に比べてメリットが強力なのだと考えられます。

 もちろん、「一斉採点方式」にも難点は存在します。基準となる点数が定まっていないため、数値化こそされているものの、「どうしてこの点数にしたか」が分かりづらい。また、審査員を設けるタイプの審査方式全般に言えることですが、場合によっては審査員が猛烈な批判にさらされやすい。そもそも人の判断はどうしても正確性に欠けるところがあり、完全に平等な審査ができるかというとかなり難しいと言わざるを得ません。

 それでも、現段階において採点方式としてはかなり妥当に思える。だからこそ、「一斉採点方式」は大規模お笑い賞レースで用いられやすいのかもしれません。ひょっとするとTHE Wでも採用を検討するかもしれませんし、誰かが優れた採点方式を発明すれば、全賞レースがそちらへ移行する可能性だってあることでしょう。

 審査って本当に大変ですね。はたから見ててもそう思います。

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