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スポーツを巡るふたつの医者勢力

 ジョギングを始めてしばらくした頃、ふくらはぎがやたらと痛くなりました。普通は病院一択なんでしょうが、当時の私にとって病院は怖いしカネがかかるし面倒くさいしで、最初から選択肢に入れていませんでした。とは言え、ふくらはぎはマジで痛い。

 そこで、今後医者にかかるかどうかはともかく、まずはタダで楽で怖くない方法を選びました。図書館に行っていろいろ調べるんです。幸い、医者はその専門性の高さから伝統的に本をよく出す職業でございますから、医者の書いた「スポーツ障害」、すなわちスポーツをやってて身体が痛くなった場合に関する本も簡単に見つかりました。とりあえず、2冊借りて帰宅したんです。

 実際に読んでみて愕然としました。この2冊、スポーツに対するノリが真逆だったんです。

 片方の本では、スポーツは健康的に生きる上で必須の要素だと主張し、無理のない程度で積極的にするよう勧めてしました。一方、もう片方の本は「スポーツはすべての害悪である」みたいなスタンスで、運動なんてしてはいけないと強固に主張していました。

 私は運動を勧める医者しか見てこなかったので、こんな反スポーツ勢力に属する医者に驚きました。もう並のスポーツ嫌いじゃないんです。「ジョギングは排気ガスを余分に吸い込む行為だ」とか平気で書いてある。この人の中でのジョギングは、車のマフラーを咥えてスーハースーハーしながら走る行為だと勘違いしているかのようです。他にも「スポーツがいいと言う人は、身体を動かすことによる高揚感が癖になってる」と主張する反スポ勢力の著者は、当然ながらすべての人類に「スポーツはやめなさい」と警告します。

 ただ、著者が医者なのは事実のようですし、本は自費出版ではなく、出版社が「これは売れるんじゃないか」と考えて作ったもののようです。だからなのか、反スポ勢力の本も親スポ勢力の本と同様に、ちゃんとした知識に基づくスポーツ障害の対応法が書かれておりました。2冊読んだ私の結論は「どうも足に負荷をかけすぎたらしい」というものでした。ジョギングを終えた後、身体が回復していないうちに次のジョギングをしていたようなんです。プロのアスリートでなければ、一度ジョギングをしたら休息日を設けるのがいいと、どちらの本にも書かれている。

 それまで私は毎日のように走りまくっていましたが、本を読んでからは休息日を設けるようにしました。やがてふくらはぎの痛みもなくなったため、やはり足に負荷をかけすぎていたようです。休息日を設けて以降は、足に痛みが出ることもありませんでした。

 そんな今でもたまに考えます。同じスポーツ障害を専門にする医者でもなんであんなに主張が違ったのかと。どちらの本も参考になる部分はあったので、無茶苦茶なことを書いたのではなさそうです。

 たぶんどちらもちゃんと事実に基づいて書いたのだとは思います。スポーツは身体を健康にする側面もあれば、身体に何らかの害を与える側面もある。体力や免疫機能の向上などの効果がある一方で、怪我やそれこそスポーツ障害の可能性がある。先ほどの排ガスのくだりだって、実験に基づいた事実だったのでしょう。

 ただし、「事実をどう見るか」は人によって異なります。スポーツに良い印象を抱いている人は利点が目につくでしょうし、スポーツが嫌いで仕方がない人は欠点ばかり見てしまう。それは専門家である医者であっても同様なのでしょう。

 じゃあ私のような素人はどうすればいいか。結局、時と場合によってどの意見を取り入れるか変えてくしかありませんでした。調子のいい時は走るし、悪い時は走らない。判断がつかなくてとりあえず走り始めてもやっぱダメそうだったら途中でやめる。素人判断なのでうまくいかない時はありますし、何より本にはならなそうな、実に平凡な方法ですが、一応ずっとジョギングを続けられています。

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