見出し画像

机の巨人が捨てられた

 人間、生きてるとどうしてもゴミが出ます。大抵はちょっとずつ出るものですけれども、たまにデカいものも出ます。粗大ゴミというやつですね。出す機会がないとは言え、出る時は出るのが粗大ゴミです。だから、粗大ゴミの収集日になりますと、道端に古い家具が鎮座した異様な光景を目にすることがあります。

 自治体にちゃんと手数料を支払った証拠のシールが家具に貼ってありますから、「ああ、派手な不法投棄ではないんだな」と安心してその場を通り過ぎることができるんですけれども、道端に家具やら家電やらがドンと鎮座している光景はなんか異様です。どこぞの前衛芸術家がゲリラ的に作品を投下したようにも見える。

 戸別収集の自治体ともなりますと、粗大ゴミを出す場所はご自宅前となりますから、一般のお宅の玄関前に壊れかけた本棚なんかがボンと放置されるため、ますます前衛芸術感が出てくるわけです。

 私のようにアパートに住まいですと、敷地の出入口近辺に粗大ゴミを出す形になります。当然、同じアパートの住民が粗大ゴミを出せば、外出時なんかに目に入る。たまに使い込まれた家電なんかがゴミ捨て場に置かれていると、「誰か粗大ゴミを出したんだな」と思うわけです。

 そんなある日のことです。仕事に出かけようと外に出ますと、道路にデカい机が置いてありました。学習机より縦にも横にも高さにも二回りは大きい、机界の巨人とも言える逸材です。巨大机は私の住むアパートの前に置かれており、手数料を支払った証拠のシールも貼ってある。つまり、アパートの住民が出した粗大ゴミであり、今まさに回収を待っている状態だったわけです。

 しかし、その机が本当にデカいんです。ゴミ捨て場ではなく道路に置かれていたのも、ゴミ捨て場に収まりきらなかったからだったんです。とは言え、アパート前の道路も車がすれ違えないほど細いんです。そこに巨大机が置かれたもんですから、ただでさえ細い道が更に細くなってしまっている。少なく見ても2割は狭めていたでしょうか。

 そんな巨大机ですが、仕事が終わって帰宅する頃には回収されているんだろうなと思ったんです。でも、まだありました。夜、街灯にじんわり照らされている巨大机は、昼間とはまた違った迫力がございました。いや、そんな感想を漏らす前に気づけよという話なんですよ。「えっ、回収されてないじゃん」と。

 巨大机とは無関係の人間ながら、このまま回収されなかったらご近所の方々へ地味に迷惑をかけるんじゃないかとハラハラしていました。結局、数日後には巨大机が綺麗さっぱりなくなっていたので、ちゃんと回収されたようです。ひょっとしたら、回収業者が考えていたよりも机が巨大だったため、後日改めてデカめのトラックで回収しに来たのかもしれません。とりあえず、アパートの前の道路がスッキリしたので、安心した次第です。

 ただ、後々になって思うんです。私の住んでいるアパートは、全部屋間取りが同じなんです。つまり、私と同じ広さの部屋にあの巨大机を置いていた部屋がある。どう計算しても、ワンルームにあんな机があったら邪魔になるんです。巨大机とベッドを置けば、下手したら足の踏み場がなくなってしまう。

 アパートの玄関を通過できるのかという疑問もありはしますが、いくつかのパーツに分けられる構造になっているのだろうとの推測で腑に落ちはします。一方、部屋を圧迫するのだけはどうにもなりません。テレビはどこに置くのか。本棚は、タンスは。「巨大机があればそんなものいらぬわ」とでもおっしゃるのでしょうか。

 ゴミはなるべく出さないに越したことはありませんが、巨大机を捨てた住民は部屋のスッキリ加減に驚いていると思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?