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笑いに関する名言集――いわゆるダジャレ

 名言集はたくさんありますし、特定のジャンルにしぼった名言集も珍しくありません。でも、笑いに関する名言集を見かけなかったので、こうやってちょっとずつ作っています。

 ここでは笑いの名言を以下のみっつのどれかに当てはまるものとしました。

・笑いに関係する言葉が入っている名言
・笑いに関係する仕事をした人の名言
・笑う余地がある名言

 今回は洒落に関する名言を集めてみました。洒落なんて表現で誤魔化しましたけれども、要するにダジャレです。ただ、ダジャレの入った名言は圧倒的な少数派であり、それよりも「洒落とは何か」を語った名言のほうが多いです。

 例えば、こちらです。

洒落は低級な機知である。
ノア・ウェブスター・ジュニア(1758-1843)

世界名言辞典(明治書院、1966)

 ウェブスターはアメリカの編集者でございまして、特に史上初のアメリカ英語辞書「アメリカ語辞典」の編纂者として知られ、この功績によりウェブスターの名は辞書と同じ意味になっているとのこと。

 そして、ウェブスターは明らかなダジャレ否定派でございます。「低級な機知」、つまり「咄嗟の一言としてはダメですね」とバッサリいっているわけです。友人知人の中にダジャレ好きがいて、心底うんざりしていたのでしょうか。

 否定派がいれば当然ながら肯定派もいらっしゃいます。

洒落は会話のとうがらしであり、人生の塩である。
ホレス・スミス(1779-1849)

世界名言辞典(明治書院、1966)

 スミスはイギリスの詩人であり、小説家としても知られます。パロディ作品で世に出ると、執筆とは別に事業を成功させて裕福となり、経済的な余裕ができた後は歴史小説をいくつも発表しました。

 そして、スミスはダジャレ肯定派です。周りに変なダジャレばかり言って困らせてくる人がいなかったのでしょうか。それとも、編集者と作家の違いが出ているのでしょうか。もしくは、ただ単に性格の差が出ているのか。とにかく、ダジャレには昔から肯定派と否定派がいるようです。

 名言を見ていると、今のところはダジャレを肯定しているか、少なくとも否定していないもののほうが優勢のようです。否定派はどちらかと言えば少数派なんです。ダジャレを否定した言葉が名言になりづらいだけかもしれませんが。

 ただ、肯定派も一枚岩ではないようです。

洒落は会話の調味料であって、食物ではない。
ウィリアム・ヘイズリット(1778-1830)、「イギリス喜劇作家たちへの講演」

世界名言辞典(明治書院、1966)

 ヘイズリットはイギリスの作家であり、批評家としても知られます。批評やエッセイの他に、講演活動も積極的にしていたとのこと。

 ヘイズリットもどちらかと言えばダジャレ肯定派ではありますけれども、「ダジャレはあくまで会話のサブであってメインじゃない」と釘を刺しています。確かに会話がことごとくダジャレだったら大概の人はウンザリするでしょう。ダジャレ肯定派でも手が出ちゃうかもしれません。

 ダジャレも用法用量を守ったほうがいいわけですね。

 こんな名言もあります。

敵手を否定せんとする戦いは冗談である。敵手の態度を否定せぬ怒りは洒落である。
阿部次郎(1883-1959)、「三太郎の日記」

世界名言辞典(明治書院、1966)

 阿部次郎は日本の哲学者であり、作家としても知られています。随筆論集「三太郎の日記」は大正から昭和初期にかけて流行、学生必読の書とまで言われていたとのこと。

 哲学者だからなのかは分かりませんが、難解なダジャレ評です。と同時に、お笑いが好きな人なら感覚で意味が解りそうな名言でもあります。

 冗談だと相手がいないと成り立たないものが多いですが、ダジャレはひとり言葉を遊ばせておけばできるもののように思います。ひとりで言葉を遊ばせていれば、敵手の否定にはならない。私はそんな風にとらえましたが、思い切り間違えている可能性も充分ございます。そもそも自分で何を書いているのかよく分からなくなって参りました。

 ここまではダジャレそのものについて語っている名言をご紹介いたしました。では、ダジャレが含まれた名言はあるのかと申しますと、あると言えばあります。

基督教の演説会で演説者が腰を掛けて話をするのは多分此(この)講師が嚆矢(こうし)であるかも知れない(満場大笑)、(後略)。
内村鑑三(1861-1930)、「後世への最大遺物」

文豪の名句名言事典(さくら舎、2021)

 内村鑑三は日本のキリスト教思想家でございまして、日本独自の「無教会主義」という考え方を唱えた人物として知られます。「代表的日本人」の著者としても有名でございます。

 原出典の「後世への最大遺物」は、キリスト教徒夏期学校での講演をまとめたものとのことです。昔の著書ということで、青空文庫では現代の言葉に直したバージョンが全文読めるようになっています。

 そして、「講師」と「嚆矢」のダジャレです。さらに「満場大笑」、つまり大ウケだったことも書かれています。会場が揺れんばかりの勢いで爆笑をかっさらったということでしょう。

 ダジャレの質はともかくなんです。上記の通り、この言葉が載っていた本は「文豪の名句名言事典」でございまして、様々な有名作家が残した文章でも「これは名句名言だなあ」と選者が思ったものばかり載ってるはずなんです。

 そんな中において、ダジャレが混じり込んでいる事実が個人的にはジワジワきます。文豪の名句名言を選ぶ選者が「こいつはいいダジャレだ、是非載せよう」と思ったところを想像するだけで口元に笑みが生じてしまいます。「(満場大笑)」もなかなかのジワジワポイントです。「すべってませんよ」アピールなのでしょうか。書き起こした人もやっぱりいろいろと不安だったのかもしれません。そんな感じで考えると、内村鑑三という立派な方が急に身近に感じてきます。少なくともダジャレが好きだったことはよく分かる。

 今回の名言集は調味料の話でお送りいたしました。

◆ 今回の名言が載っていた書籍


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