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すがるように「極相」を覚えた話

 地面を何もせずそのまんまにしておくと、草が生え始めます。最初は小さい草だったのが、だんだん人よりも背丈のある草がボーボーになる。そのうちに木が生え始めたかと思うと、ゆっくりとしかし確実に木の数が増え、林になり森となる。このような変化を「遷移」と呼ぶと高校の頃に習いました。

 森になるともう大きな変化はありません。もちろん、木が倒れたりとか、崖が崩れたりとか、そういう変化は起きますけれども、そんな森にポッカリとできたスペースにもやがて草が生え、木が生え、元の森になっていくことが知られています。つまり、森が一種の最終形態であり、その森がどんな種類の木で構成されるかは場所や気候によって異なります。

 当然、その最終形態には名前がつけられています。その名も「極相」であり、最終形態の森を「極相林」と呼びます。「遷移」もそうですが、聞き慣れない言葉がいかにも専門用語っぽい。当然、テストによく出る言葉なので、覚えなければなりません。しかし、聞き慣れない言葉のせいか、覚えが悪いんです。何でこんなにもというくらい、記憶が脳に定着しない。

 ただし、極相に限ってはなぜか助け舟がありました。別名が用意されていたんです。その名も「クライマックス」でありまして、極相を意味する英単語でもあります。これなら覚えやすい。ドラマだの何だのでクライマックスと呼ぶ時がありますし、今じゃクライマックスシリーズなんてのもあります。記憶だって壁にへばりつくスライムより脳に定着するってもんです。

 しかし、いざ空欄にクライマックスと書く時になって思うんです。「これ、本当に合ってるのか」と。遷移とか極相とかなら、専門用語っぽさもあって、正解らしい単語に見えるんです。でも、生物の問題で「クライマックス」と書くと、どうにも自分がふざけてる気がしてくるんです。クライマックスと書いて先生は本当に丸をくれるのか、どうにも信じられなくなっていきました。この不安から解き放たれるには「極相」という言葉を覚えるしかありません。空欄にクライマックスと書くこと自体、何だか恥ずかしいし。

 そんな心持ちで単語を覚えたのは後にも先にも極相だけです。いや、もうひとつありました。「応力」です。「応力」とはとある決められた面積にかかる力を指す言葉でして、英語だと「ストレス」と言います。「いやストレスはないでしょ」と思って応力という単語を一生懸命覚えました。

 こういうの、探せばまだまだありそうですね。私だって科学者だったら特殊な化学反応を「ビューティフルサンデー」みたいな、どう考えても化学っぽくない名前にして世の受験生たちをまどわしにかかりたいんです。機会があったら、そんないたずら好きな科学者の悪ふざけ跡を探してみたいと思います。

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