見出し画像

お化け屋敷の特殊な入口

 私の幼なじみ、ここでは西岡君としておきますが、彼とは小学1年生の時によく遊んでました。

 西岡君の隣には当時6年生の男の子が住んでいました。ここでは吉井君としておきますけれども、西岡君は吉井君ともたまに遊んでいたようです。

 私と西岡君と吉井君の3人で遊んだことも何回かあります。1年生の我々からしてみたら、6年生は体力も知力も桁違いです。スポーツもゲームも、相当なハンデをもらった上に汚い手を丁寧に駆使しても全く歯が立たない。6年生ってすげえ、と思ったものです。

 そんなある日のことです。地元でお祭りがありまして、私は西岡君を誘って祭りへ向かいました。

 会場にはご近所の有志によります様々なお店が並んでいました。その中に風変わりな外見の建物がありました。入口にはおどろおどろしい文字で「おばけやしき」と書いてあります。

 お化け屋敷が何なのか、当時の私はよく分かっておりませんでしたけれども、不穏な雰囲気は察していました。なんか入りたくない。でも、隣の西岡君は興味津々です。「入ろう」。私は渋々入る羽目になりました。

 お化け屋敷は暗く、気味の悪い音楽が流れています。遠くから呻き声も聞こえる。初見ながらに霊界的な治安の悪さを感じた私、早くも逃亡したい欲求に駆られます。

 そんな私をよそに、西岡君はズンズン先へと進みます。ひとりで入口まで戻る勇気がない私は半泣きで西岡君についていきますと、前を歩いていた西岡君が急に立ち止まりました。「前に誰かいる」と言うのです。

 確かに、少し前の壁に人のようなものがぶら下がっているんです。暗がりでも服が白く、顔についた血糊が分かる。どう考えてもお化けです。でも、先には進まなくてはならない。

 気持ちが整わないまま、西岡君に引きずられてお化けの前へ行きますと、不気味な雰囲気に似合わない声で「あ、西岡君と星野君」と聞こえます。明らかにお化けがしゃべっている。

 お化けは吉井君でした。あとで聞いたら、知り合いのおじさんから打診を受け、「人をビビらすなんて最高じゃん」とのロクでもない欲望により快諾し、実際にお化け屋敷で己の欲望を満たしていた。そこへ私たちが来たので思わず素に戻ってしまったようです。

 この時を皮切りに、私は同行者の強い願いを断りきれず、いくつかのお化け屋敷に入っては後悔する半生を送ることになります。しかし、たまたま出会ったお化けが知り合いだったことはありません。もちろん、出会ったお化けを素に戻した経験もない。お化け屋敷のスタートラインとしては随分と特殊だったんだなと今になって思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?