パンダはリンゴに誘惑される

 子供の頃、牧場で牛が餌を食べる様子を見ていると、牛にも食べ物の好みがあると気づきました。牛の餌場には牧草を刈り取ったものとペレット、すなわち固形の餌を混ぜたものがご飯として用意されていたんですが、牛はまずペレットだけを器用に食べ、ペレットを食べ終わると仕方なく草をはみ始めたんです。好きなものばかり食べるとすぐ母親に怒られていた私には非常に共感を覚えました。

 他の動物もそうみたいです。例えば、飼っていたカメには専用のペレットをあげていたのですが、何となく生肉を少しだけちぎってあげたんです。そうしたら、ものすごく食いつきがいい。逆によすぎて普段食べているペレットをなかなか食べなくなってしまいました。ペレットのほうがバランスよく栄養が取れると聞いていたため、食生活を戻したかったのですが、随分と苦労した覚えがあります。ただ、今となってはカメの舌を肥えさせたエピソードとして非常に印象深い記憶となっています。

 動物園で見たパンダもそうでした。パンダと言えば笹を食べる生き物で、検索するとそんな感じの写真が山ほど出てきます。栄養を考えて作られた団子状の食べ物、その名もパンダ団子という餌を与えているところもあるようです。しかし、どうもパンダはそれよりもリンゴが好きなようで、動物園でパンダを見ると笹の間に転がっているリンゴを目ざとく見つけては率先して拾って食べているんです。

 人を含めた生き物には食べ物の好みがある。それは別にいいんですけれども、気になる話を聞きました。

 パンダに子供が生まれた場合、飼育下では子供の体調を人がちょくちょく確認しなければいけません。しかし、普通に子供を拝借したのでは親パンダが許しません。我が子を守ろうと人に襲い掛かる可能性がある。双子を生んだ時には往々にして片方しか育てないらしく、それを防ぐために人の手でちょくちょく2匹の子供を入れ替え、どちらにも平等に育ててもらうという手法を用います。そうなるとより一層子供を拝借しなければいけなくなる。安全に子供を拝借するためには、親パンダの気をそらさなければならない。

 私が聞いた話は、某所ではリンゴでパンダの気を引いている隙に子供を拝借しているらしいんです。実際にリンゴでパンダを釣っている映像を見たという友人によると、親パンダはさっきまで大事そうに子供を抱えていたのに、リンゴを見るや否や子供を放置して食べに行っていたそうです。その隙に飼育員が子供を拝借する。

 どんだけ好きなんだよ、というツッコミを禁じ得ません。子供を放っておいてでも食べたくなるなんて、パンダにとってリンゴはどれだけ禁断の果実なんですか。

 私は「千と千尋の神隠し」の序盤で、子供を放って飯を食いまくり豚になる両親を思い出しました。あれのパンダバージョンを作るならば、きっとリンゴの山になるんだと思います。

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