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卓球クラブ社交ダンスとエアロビ眼科医院

 「看板に偽りなし」があるかと思えば「羊頭狗肉」があったりと、信用しようにも信用しきれないのが看板やそれに似た性質の物体です。

 ただ、最初から騙そうと思って羊頭狗肉にしている看板はむしろ少数派だと思います。多くの羊頭狗肉は、最初は偽りのない看板だったのに時間経過と共に周辺環境が変わってしまい、結果として何も変わっていない看板のほうが事実を示していない状態になってしまったのだと思います。どう考えても営業していないし何なら人も住んでいないのが明らかな家の軒先に電気屋の看板がぶら下がっている現象なんかはその典型でしょう。

 ちなみに、騙す気満々の羊頭狗肉の他にもレアなパターンは存在します。例えば、近所にある商店街での話です。

 その建物は1階がコンビニで、2階は多目的スペースのようでした。多目的スペースは何しろ多目的ですから、外から確認する限りはほとんど何もないスッキリした部屋に見え、ここで日々何が行われているのか推測するのは難しい。ただし、今回の多目的スペースは用途がハッキリと分かりました。窓にでかでかと「卓球クラブ」と書かれたポスターが貼られていたからです。地元の卓球クラブが利用しているスペースなんだと思いました。その時は、そう納得しただけで通り過ぎました。

 次に卓球クラブ前を通りますと、2階に人の気配がするんです。見て一発でおかしな点に気づきました。みんな社交ダンスをしているんです。純度100%の社交ダンスであり、卓球らしさはゼロです。無理に卓球らしさを挙げるとすれば、窓に貼られている卓球クラブのポスターです。

 なんだこれは。卓球クラブじゃないのか。私は大いに戸惑いました。あまりの羊頭狗肉っぷりに思わず2階へ上る階段に近づきますと、理由が分かりました。2階のスペースは曜日や時間帯によって利用する団体が違っていて、その時はたまたま社交ダンスクラブが使っていただけなんです。その中でどうして卓球クラブだけ自己主張が激しめなのかは知りませんが、それゆえにレアな羊頭狗肉が見られたわけです。

 そんな卓球クラブから歩いて数分のところにある眼科医院でもレアな羊頭狗肉が目撃できました。その眼科医院も2階にありまして、窓に「〇〇眼科」のステッカーがでかでかと貼られていました。その向こう側で、何やら激しく動く人の姿があったんです。

 何を眼科医院でそんなに動くことがあるのか。私は思わず立ち止まって前の道路から中の様子を確認していると、室内にいる人の動きが何かに似ている気がしたんです。幸い、その「何か」はすぐに分かりました。エアロビクスです。着てる服なんて明らかにエアロビウェアでしたし。

 「眼科医院でなぜエアロビ」との疑問が湧きそうになりましたけれども、何しろこの世は卓球と社交ダンスが同じ場所で行われているんです。眼科医院とエアロビが同じ場所で行われていても不思議ではありません。

 そう納得している私の前で、エアロビさんのそばに長身の女性が現れ、エアロビさんの頭を軽く叩きました。そこでエアロビさんが10歳くらいの少年だったことに気づいたんです。叩いた女性は恐らくエアロビさんのお母様でしょう。お母様はエアロビさんの腕を掴んでどこかへ引っ張って行きましたが、その間もエアロビさんはエアロビを継続していました。

 恐らく、エアロビさんはお母様を待っている間の時間を持て余していたに違いありません。そして、エアロビさんはエアロビっぽい動きをすることで暇を潰そうと考えたのでしょう。そこを私に見られた。お母様にも見られた。

 なんでエアロビさんがエアロビっぽいウェアを着ていたのかは分かりませんが、なんかそれっぽい習い事をした帰りに親子で眼科医院へ立ち寄ったのかもしれません。

 羊頭狗肉の紹介と言うよりは、私が2階にあるものを勘違いしやすい傾向にあるだけという話ですね。失礼しました。

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