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恥を見てきたのは人間だけでなく

 いくらかきたくないと言ったところでかいてしまうのが恥というものです。多くの人が注目する中で派手な失敗をするタイプの恥があれば、派手な失敗をして初めて人目をひくタイプの恥もあります。

 とは言え、年齢を重ねると恥に耐性ができてきたように感じます。いろいろ理由はあると思います。自意識が薄くなるとか、面の皮が厚くなるとか。経験を重ねていろいろ分かってきたというのもあります。みんなもどこかで必ず失敗するし、他人の失敗を意外と覚えていない。失敗を繰り返し、他人の失敗に対して寛容になる人も出てくる。もちろん、失敗したからには原因のをつきとめ、同じ失敗を繰り返さぬよう改善する必要はあるでしょうが、とりあえず恥をかくことに抵抗が薄れたのは確かです。

 さて、先日、私は動物園に行ってまいりました。動物はぼんやり眺めていると人間がやらないような行動をたくさんするので本当に面白い。サイが振り子みたいな玩具を角で吹っ飛ばして遊んでいたら、振り子がその反動でサイの脇腹にクリーンヒット、思わぬ一撃に激高したサイは吠えながら隣にいるサイに突撃するも鉄格子に阻まれる、みたいな光景が見れたりします。

 動物園にいても恥をかく時はかくものです。私はサル山の前にある机で昼食をとっていました。持ち寄った食べ物をステンレス製のランチプレートに盛りつけまして、おいしくいただいていたんです。近くにごはんがたくさんあるのにサルたちは無関心です。まあ、人間が近くで飯を食うなんて動物園のサルにとっては日常茶飯事ですから、特に動じないのでしょう。何なら、毎日のようにたくさんのご飯をゲットできているでしょうし。

 昼食を食べ終えた私、満腹になって油断していたのでしょう。うっかりランチプレートを机から落としてしまいました。ステンレス製だったことが災いしてか、空のランチプレートは実に大きな音がしました。ベコーンという、空の一斗缶を思いっきり蹴っ飛ばしたような音です。当然、周りの人の注目をひく。しかし、もう恥には慣れた身の上です。慌てずに淡々とプレートを拾った私ですが、友人がこう言ってきました。

「サル、めっちゃ見てるよ」

 事実でした。サル山にいるサルがマジで全頭こっちを見てるんです。しかも、警戒してか例外なく目をカッと見開いている。いやいや、そういう注目は想定外です。わざとじゃないんですよと言い訳したいところでしたが、私はサル語が分かりません。

 このままサルが興奮しながら石を投げつけたり、こちらに飛びかかってきて食べ物を強奪したりしてこないかと思いましたが、そこまでは興味がなかったようで、サル山にもあっという間に日常が戻りました。

 なんだ、サルも同じか。私の面の皮は新たな厚さに突入いたしました。

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