OWCモノローグ)学校嫌いのためのモノローグ by 笠羽流雨

〇シーン1 問診

「今でも時々夢を……」

「はい、学校は、いつも賑やかで、こ、孤独です」

「いいえ。その中に私の好きな人間もちらほら……。でも、彼らが集団になると……駄目なんです。チームワーク? け、け、結束力?」

「はい、皆一緒、という、その中で、誰もが異物を排除しようとして……私はもう……お、お、嘔吐感が……」

「すみません…………」

「もう大丈夫です。すみません。喋るのは、あまり、その、と、得意ではないので読ませて、もらいます。あ、はい、書いてきました」

〇シーン2 回想

その場所で私を迫害するやつはいつも被害者を装っている。下駄箱の靴を隠したやつも、彫刻刀で机に傷をつけて担任に私がやったと報告したやつもそうだった。彼らは皆、理屈ではなくタイミングで生きている。だから、どんなに正しくないことをしても同情される。彼らはいつでも被害者になれる。彼らは私が抵抗するのを待っている。

〇シーン3 夢

夢を見た。夢の中で、私は体育館にいて、無数の声から非難を浴びせられていた。違うと口を開こうとすると、集団はそれをなんとしても封じようとする。喋れば喋るほど分が悪い。私は黙ってしまう。貝殻の奥へと滑り降りてゆく。スイッチを切る。沈黙。黙っていればいい、だって私は被害者なのだから。

けれど、その時、ふとこう思った。被害者になるくらいなら加害者になったほうがマシじゃないか?

いつの間にか、私は相手をいかに貶めるか考えていた。立場を逆転させてやる。屈辱は屈辱で返す。私は目の前で唾を散らしながら私を罵倒し続けている一人を睨みつけた。

「なんだよ、その目? 殺すぞ?」

私は吃音だった。口元が震えた。湧き上がる動悸がある点を超えて急速に収まった。驚くべきことに、悪口雑言は流れるように私の口から迸った。言葉は私の意志とは無関係に吐瀉物のように溢れてくる。私はそいつの退屈な人生の始まりから終わりまでの全てを猛烈な勢いで否定した。

気がつくと、そいつは泣いていた。私は突然話し終わった。そいつについて語るべきことが何一つなくなっていた。嵐のような沈黙があって、それから先生たちが私を取り囲み始めた。

「なぜ、そんなに酷いことが言えるんだ?」

先生は暴力の衝動を必死に堪えるようなむず痒い顔をして芝居じみたことを言った。この極端に知性から程遠い類人猿は微かな知性の残り滓で人を殴りたい衝動に理由付けをしようと躍起になっているのだ。

「お前のようなやつが和を乱すんだ、潰してやる、必ず生ゴミのように潰してやる」

充血した赤い眼をぐるぐる回して武者震いし、顔面を猿の尻のように紅潮させながら先生は言った。

「俺は、お前のようなやつを前にしても沈黙しない。皆だってこの下劣な類人猿の粗暴さに服従しているから人間性を失って集団でゴリラ化してしまうんだ。こういうやつはやっつけなければならない。連帯するんだ。連帯して抵抗しろ!」

私は叫んだ。先生たちが一斉にこちらに飛びかかってきた。どこかから、拍手が聞こえてきた。拍手は次第に大きくなっていった。

「自由万歳! 自由万歳!」

みると、さっきのあいつが涙を流して拍手している。拍手はどんどん広がった。体育館はいまやオーケストラそのものだった。雷雨のような拍手。それを切り裂く怒号。

「黙らせろ! 黙らせろ! とにかくこいつを黙らせろ!」

そう叫ぶ先生たちは赤い眼をしていた。

私は取り押さえられ、ひたすら殴られた。

そうして、私は息絶えたのである。

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