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ウクライナ戦争 -day3

(*2月27日の内容です)

今日は、クラクフでコンサートの仕事がありました。

クラクフはポーランドの古都。
古く美しい建物が残り、街の高台にはお城が建つ風光明媚な観光都市。

ロシアからウクライナへの軍事進攻が開始されてから2日目。
昨日2月26日夕方にヴロツワフを出発し、
オーケストラの一行を乗せたバスは夜もすっかり暗くなってから目的地に到着した。

顔なじみのメンバーが集まるオーケストラなので、コンサート前夜の飲み会は恒例。今回はバーに行って飲むことに。

落ち着いて和やかな雰囲気の中、クライナとロシアの話題もポツポツと出る。

ポーランド人同士で話している会話の内容は詳しくはわからなかったけれど、
とにかく最悪だ。
この先どうなるかわからない。
君は軍楽隊所属だったよね、国境へ行くの?
ロシアの大統領は何を考えている?
俺は訓練だけは受けたよ。

こんな感じだった。

みんな顔や雰囲気には出していないけれど、やはり不安や緊張はあるみたいだった。



翌朝、リハーサルのためにフィルハーモニーへ向かうため旧市街を横切る。すると昨晩の月明りでは照らし切れていなかった美しい景色を見ることができた。

日曜日の早朝の旧市街は、人気がなく静か。
真っ青な雲一つない空と建物とのコントラストが美しかった。

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「いい天気だね。」と仲間に話しかける。
「うん。いい天気だ。隣の国では戦争だなんて。」


信じられないよね。と心の中でつぶやいた。

今こうして振り返っても泣けてきてしまう。

本当にきれいな青空だった。
長く厳しい冬の終わり。
春の訪れをやっと感じられる幸せな瞬間。

だけど、

今この瞬間も、すぐ隣の国で戦争が起きている。
爆弾が飛び、人が住む家が壊されて、
銃を打ち合って戦車が街中を走っているなんて信じられない。




リハーサル終わり、
インスペクターから「本番で、ウクライナ応援のためのリボンを配るからつけたい人はどうぞ」とアナウンス。

オーケストラのメンバーは、胸に青と黄色のリボンをつけて演奏した。

ブラボーが飛び交い、拍手喝さいで最後の曲が終了。
お客さんはみんな笑顔だった・・・

すると指揮者がマイクを取り挨拶。

「今日は、この歴史ある街クラクフで、音楽アカデミーの学生と共に、皆さんと素晴らしいコンサートを共有出来て光栄です。

先ほど最後の演目でソロを吹いた学生を紹介したいと思います。

マレック(仮)はウクライナ出身です。
彼のお父さんは兵士で、現在前線にいます。
どんなに家族を心配しているか。この辛い状況の中、立派に今回の大役を果たしました。
彼に大きな拍手をお送りください!」

一緒に演奏したアカデミーの学生の一人が、ウクライナからの留学生だったのだ。

万雷の拍手を受け、彼は顔を真っ赤にして涙をこらえていた。

拍手は鳴りやまない。

指揮者が自分に送られた花束をマレックに渡すと、
いよいよ涙を流しながら彼は受けとり、一輪一輪、周りの女性奏者に配った。

これには他のメンバーももらい泣きしてしまった。
温かく、痛く、悲しい光景だった。

彼の行為は、感動的とか、国を超えた友情、とかそんな言葉で表現するには
今の状況はあまりにも深刻で辛い。


アンコールからのスタンディングオーベーションで、大好評のうちコンサートは終了した。

別れを惜しみながら、何度も何度もみんなとハグをした。
気を付けて。

またすぐ会おうね。


本当にそう願う。

この厳しい状況の中、コンサートで演奏できる幸せを噛みしめながら帰路へのバスに乗り込んだ。




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