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【好きな落語家、好きなネタ】第2回 桂米朝

4コマ漫画家兼落語作家にして「落語音源コレクター」の顔も持つ私なかむらが、自分の音源コレクションと観覧体験を元に、好きな落語家さんのネタのベタな思い出をひたすら書き綴るコラム。
第2回は桂米朝師について。

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自分が落語を音源でコレクションしようと思い立ったのは、ひとえに「桂米朝上方落語大全集」との出会いがあればこそ、でした。

始まりは大学時代、『くしゃみ講釈』と『持参金』の2席が収録された「桂米朝上方落語大全集」のテープを買ったこと(当時のソフトはテープとレコードのみ)。
その数年後に上京して、ある時東京の紀伊国屋書店で見つけた同シリーズのテープを発見、そこで『らくだ』『骨つり』『三枚起請』など十数本購入。
さらに1993年にコレクション活動を開始してからは、当時住んでた千葉県市川市の図書館を巡って、全44本中40本(すべてテープ)まで収集できました。
その後2006年にCDとして再発売され、同シリーズはコンプリート達成したのですが、CD(レコード)とテープは編集が違うことをその時初めて知り、愕然としたのでした。

同シリーズ以外にも、長期シリーズの続編である「特選!! 米朝落語全集」全40巻、「桂米朝 艶笑いろはにほへと」正・続2巻、「米朝珍品集」全8巻とお付き合いし続け、私の中の「米朝沼」は一応完結。(2015年3月19日に89歳で逝去される前後も、ソフトは発売されていたようですが)
上に挙げた4タイトルで、収録演目数(小咄含め)はのべ250を越えると思います。

『百年目』『千両みかん』『はてなの茶碗』『たちぎれ線香』『地獄八景亡者戯』『帯久』など「米朝ならでは!」の長講ネタももちろん文句無くイイのですけど、やはりこれだけの数を買い続けた「沼」の「沼」たる原動力は、他に演じ手のいない稀少ネタの数々だったのでは、と思っています。

初っぱなの「桂米朝上方落語大全集」にさえ、既に『三年酒』『卯の日詣り』『いもりの黒焼』『べかこ』『矢橋船』など数多くのマニア心を揺さぶる稀少ネタが収録されていて、中には前述『地獄八景~』や『算段の平兵衛』のようにソフト発売後に広く演じられだした演目も多数あります。

さらに「米朝珍品集」「艶笑いろはにほへと」の珍しい演目だけをまとめた2タイトルが、コレクター嗜好に拍車をかけました。
艶笑系は業界的に売れ筋らしいですが、「珍品集」に関してはおそらく最初から売り上げ度外視、後世に口演記録を残すことを目標とした販売だったであろうことは想像に難くありません。
珍しいがゆえに忘れられない演目や小咄も多くて、とりわけ、現代では誰も演じない神仏系のネタをたくさん残してらっしゃるのは貴重です。

小咄といえば、CDで聴いたタイトルすら知らない小咄で、こんなのがあります。
ある男が、仮名で書かれた「大阪道頓堀 蒟蒻屋の借家」の看板を区切りを間違えて「おおさかどう・とんぼりこん・にやくやのしやくや」と読んだという…。
あまりにくだらなくて、数十年経ってもずっと頭にこびりついています。

米朝師は口演音源・映像だけでなく、多くの落語速記や研究の著書も残しておられます。
プロの噺家になる以前は正岡容門下で落語研究を重ね、戦後はその師の命を受けて自ら上方芸能の世界に身を投じたという、根っからの学究肌。私のような聞きかじりのひやかしが文章で書くのも、ホントは憚られる存在なのです。
ナマ高座こそ生涯に二度接することができただけでしたが、数々の貴重かつ面白い稀少ネタを落語ファンに教えてくださった恩義ということでは、米朝師にはひたすら感謝しかありません。(第2回・了)

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