それぞれの地獄に寄せて

どんなことも 胸が裂けるほど苦しい
夜が来ても すべて憶えているだろ
声を上げて 飛び上がるほどに嬉しい
そんな日々が これから起こるはずだろ

フィルム(2013) 

晴れの日にも 病める時も
側にいてよ Baby
駄目な時も 悪い人も
置いてゆけ
笑う君も 怒る声も
側で舞う Baby
間違う隙間に 愛は流れてる

Pair Dancer(2018)

I’ve got something to say
(みんなに言いたいんだ)
To everybody, fuck you
(Fuck youって)
 It’s been on my mind
(ずっと思ってたんだよ)
You know I meant it with love
(心から愛を込めて)

Same Thing(2019)

あの人を殺すより
面白いことをしよう
悲しみと棒アイスを食う

あの人を殴るより
イチャついて側にいよう
唇が離れぬように 抱く

私(2019)

きらきらはしゃぐ この地獄の中で
仕様のない身体 抱き締め合った
赤子に戻って

不思議(2021)

一生の切なさを 笑いながら踊らせろ
悲しみに座り 寛げるまで
僕らいつも果てなき この愚かさの中

Cube(2021)


 わかる人にはわかるやつ。これらは全て星野源(敬称略)の楽曲の歌詞の一部を引用したものです。

 すべて共通点があって引用しているのだけど、星野源の歌詞全体に共通しているという意味で大量に引用しているので、これ以上やると終わりがないということで一旦我慢して。

 とにかく、マイナス表現とプラス表現が交互に出てくる詞が、過去から現在に至るまで非常〜〜〜に多い。

 そして星野源の歌詞というのは、それを単に羅列している訳では無いというか。
 並列に表しているわけではないと思う。

 つまるところ、楽しいことがあれば悲しいこともあるというのは小さい単位で見ると確かにそうなんだけど、その二つのことを、星野源は「並列」ではなく「同じ」こととして扱っている気がする。

 特にその意味が顕著なのは2019年の『Same Thing』。そもそも曲名が「同じこと」であると共に、同曲には他にこんな詞が綴られている。

I just thought it’d be fun
(「楽しそう」って思うのも)
Went through a whole lot so fuck this
(「最悪だ」って落ち込むのも)
They all mean the same thing, you know
(どっちも同じことなんだ)
We alright, change it up, do your thing
(それで大丈夫 それでいい)

(和訳含め公式ホームページより引用)

 「楽しそう」と「最悪」が同じだなんて、一体どういう意味なのか?

 星野源の詞はそもそも、「人生って元から苦しいものなんだ」という見方に基づいて書かれている。…と思う。

 
またその最たる例が恐らく、星野源がくも膜下出血に倒れてからリリースした「地獄でなぜ悪い」の歌詞にある。またまた引用しますが。

無駄だ ここは元から楽しい地獄だ
生まれ落ちた時から 出口などないさ

地獄でなぜ悪い(2013)

 これはつまるところ、「人生は元々さらで地獄であり、生きているということはイコール辛いことなのだ」ということを言っている。
 ともすれば地獄からの出口は死、とも思えるが、元来人間は死後の世界に地獄があるものと考えていたわけなので、結局生まれたが最後、地獄からの出口はどこにもないということになる。

 ここで一応、どうして人生が元より地獄だなどと言うのか、ということについて、星野源本人の話から要約してサラッとお伝えしておく。


 前述の通り、星野源は地獄でなぜ悪いをリリースする前、くも膜下出血で死にかけている。
 なんとか手術は成功したものの、術後はとんでもない痛みと吐き気の中で、全く動けないまま、集中治療室で色濃い絶望を味わうだけの三日間を過ごしていた。
 それはそれはとんでもない苦しみだったらしいが、その中で、「身体が生きようとしている」ということをまじまじと感じたらしい。
 そしてつまるところ、「生きようと必死になっているときって、とっても辛いんだ」「生きようとすることは、そもそも辛いことなんだ」と思った……という話を、本人がしてました。

 はい。そういう訳で、星野源は「ここ(みんなが生きているこの世界。この時。)は元から楽しい地獄だ」とか言うんですね。楽しいことも沢山あるから気付かないけど、元から地獄なのだと。


 そんな地獄の渦中に立って。
 それでいて私たちは、「飛び上がるほどに嬉しい」とか思い、「晴れの日」でめでたいとか言い、誰かを愛し「イチャついて」「抱き締め合った」りして、

 元より苦しい、間違いだらけで悲しみだらけで果てのないほど愚かな日々を、愛している。


 だから星野源は、楽しそうなのも最悪なのも同じだと言うんだと思う。心から愛を込めて、「Fack you」と言うんだと思う。
 地獄と愛おしさは同じであると。

「この地獄を愛している」と、言っているんだと、思う。



 それから。

 本来創作物を、リアルに描く必要性はない。
 現実逃避の手段にもなる偽物の世界を、ここまで生々しく描く理由を考えてみると、過去に本人の著書で綴られたことばを思い出す。

 音楽で世界を変える、といったような夢見がちなセリフに対するアンチテーゼのあとに、添えられたことば。

 でも、音楽でたった一人の人間は変えられるかもしれないと思う。たった一人の人間の心を支えられるかもしれないと思う。音楽は真ん中に立つ主役ではなく、人間に、人生に添えるものであると思う。

働く男(マガジンハウス,2013)


 いつも星野源は エンタメのど真ん中に立って、
 他人を、音楽を受け取るたった一人を支えるためだけのことばを、詞にしているのだと思う。

 それぞれの地獄に寄せて。

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