strangers
街中で何かを目にした時、香りを感じたとき、
誰かや何かを思い出したりする。
そういう時、私は自分の思考や妄想の世界に体ごと持っていかれるような感覚になる。
時々妄想が過ぎて、それが過去、現実に起こったこととして記憶してしまっていることもあって、以前は本当に現実との境がわからなくなって困ったりしたほどである。
大人になって公の場ではずいぶんコントロールできるようになったが、
久しぶりに頭の中の世界に強く引っ張られた。
化粧品屋の一角で、好みの香りを見つけて目を閉じて吸い込んでいると、
彼の言葉を思い出した。
「君、面白い香りがするね。」
少し汗ばむような暖かい日に言われた時はどういう意味かと衝撃を受けたが、今ではほほえましい思い出である。
彼が私を抱きしめる。
五感すべてで私を味わうように、頬や首筋に顔を寄せる。
私はゆっくり目を閉じて、深く息をつき、されるがままになる。
そしていたずらに笑ってこうつぶやく、
「ねぇ、私、面白い香りがする?」
目を開けるとそこはパステルカラーの並ぶ香水売り場の一角で、
まだ夢の中にいるような景色の中をまたぼんやりと歩き出した。
叶わなかった淡い思いを抱きしめながら。
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