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【Podcastシリーズ】スタートアップにおけるアクセシビリティはプロダクト品質と速度への投資

overflowの「声」を伝えるPodcast『overflow fm』📻
日々、プロダクトや企業理念、カルチャー、メンバーなど、ありのままを生の声を通してお届けしています。

今回のゲストは株式会社SmartHR「プログレッシブデザイングループ」に所属されており、overflow技術顧問としてアクセシビリティの専門家であるますぴーさん(@masuP9)。アクセシビリティとは一般的に、「製品やサービスの利用しやすさ」という意味を持つ言葉です。

そもそもアクセシビリティとは?という基本的な考え方から、スタートアップ企業でどのように取り組んでいくべきなのかなど、アクセシビリティに関するあらゆることを伺いました!


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VPoE佐藤の誘いで複業ジョイン

鈴木
本日のゲストは、先日overflowで技術顧問に就任いただき、アクセシビリティを専門としているますぴーさんです。僕はまだ、アクセシビリティに関してあまり知識がないので、今日はアクセシビリティについてゼロから聞いていく回にできればなと思ってます。では早速ですが、自己紹介をお願いします。

桝田
ますぴーこと桝田と申します。本業では、SmartHRでアクセシビリティエンジニアやプロダクトデザイナーをしています。

overflowには、VPoEの佐藤歩さん(@ahomu)にお誘いいただき、複業という形で、技術顧問としてお手伝いすることになりました。歩さんとは、前職のサイバーエージェント時代の上司と部下というか、歩さんがマネージャーで私が芸人というような関係で(笑)一緒にいろいろとお仕事をさせていただいていました。歩さんがoverflowに転職されて、UIのお仕事を一緒にやってくれないかということでお声がけいただきました。

鈴木
どんなきっかけでSmartHRさんには転職されたのですか?

桝田
サイバーエージェント時代に、複業としてSmartHRでアクセシビリティの技術顧問をしていて、そのまま複業転職という形でジョインしました。

転職のきっかけは、主に3つです。1つ目は、SmartHRの組織の中で自分がワークするイメージを明確に持てるようになったこと。1年ぐらい技術顧問として携わっていると、組織の中での関係もできますしね。2つ目は本業にすることで、当時やっていたことのスピードをもっと上げていきたいとも思ったこと。3つ目は、ちょうどその頃、一緒に働きたいと思う人たちが、SmartHRにたくさん入社してきたこと。元々の知り合いも含めて、「この人たちと仕事できるのは今しかないかもしれない!」っていう勢いもあって、転職を決めました。

鈴木
まさに、複業転職という形でのジョブチェンジ!やっぱり複業転職だと、お互いにギャップがないというメリットがありますよね。

桝田
本当にそうですね。皆さんおっしゃっていることですが、複業転職だと、「自分がちゃんと価値を発揮できるかな」とか「試用期間ドキドキするな」みたいな不安がすごく少ない状態で入社できるので、組織の中で価値を出す初速も、チームに馴染めるのも早かったと思います。

ちなみに、overflowに複業転職されたVPoEの歩さんは、当時私がSmartHRに複業転職したことがきっかけで、複業転職というものを強烈に認知されたそうです。歩さんが今overflowにいるのは、私のおかげかもしれません(笑)

鈴木
歩さんに複業転職を教えてくれたのが、ますぴーさんっていうことですね(笑)

SmartHRでのお仕事について

鈴木
SmartHRさんでは、どんなお仕事をされてるんですか?

桝田
アクセシビリティエンジニアとプロダクトデザイナーという2つの職種を兼務しています。

転職して最初の1年間は、プロダクトデザイングループで、SmartHRのSaaSプロダクトのデザイン設計をする仕事をしていました。元々フロントエンドエンジニアだったのですが、SmartHRに入社したタイミングでデザイナーにジョブチェンジしたんです。それと並行して、全社のアクセシビリティを向上していく仕事もはじめました。

今年の1月には、アクセシビリティと多言語化対応という2つのミッションを持つ「SmartHRプログレッシブデザイングループ」という組織を新設して、今はそのチーフも担当しています。具体的な仕事内容は、各チームの多言語対応や、アクセシビリティの品質向上の支援やリードをしたり、全体的な目標設定をしたりという感じですね。

鈴木
第3のデザイン組織として、プログレッシブデザインチームが新設されたというnote記事も拝見していたのですが、SmartHRさんでアクセシビリティの重要度が上がってきた背景にはどんなものがあったのですか?

桝田
SmartHRのサービスをリリースして3,4年が経過した頃、SmartHRを導入いただくお客さまが増えて、実際に利用していただく従業員の方々の多様性がかなり広がったことがきっかけとしてあります。

最初は、ITや技術系のお客さまが中心だったのですが、だんだん小売や製造業など、幅広い業種や数万人の従業員を雇用されているようなお客さまにも導入いただくようになっていきました。そうすると、従業員の方々の多様性が広がり、高いアクセシビリティが求められるようになっていきました。

我々が提供しているSmartHRのサービスは、従業員と人事労務担当者を繋ぐツールでもあるので、多様な従業員の方々誰もが使いやすいものにする必要があるんです。そんなことがきっかけで、SmartHRではアクセシビリティを重視するようになっていきました。

アクセシビリティとは「やさしさ」ではない

鈴木
SmartHRさんの中で、アクセシビリティとは?みたいな定義とか、共通理解ってありますか?

桝田
ちょうど今年から始めた技術開発チーム向けのアクセシビリティ教育研修では、アクセシビリティとは、「やさしさ」ではなくプロダクトの品質であるということと、必ずしも障害者対応だけではないということを伝えています。まだ啓蒙し始めたばかりなので、どこまで会社全体として浸透しているかは分からないのですが、特に「やさしさ」ではないという考え方を大事にしていますね。

鈴木
「やさしさ」ではないって、どういうことなんですか?

桝田
「やさしさ」としてやっているわけではなくて、当たり前のこととしてやっている、というイメージですね。例えば、どれくらいのお給料をもらっているかとか、どんな保険に入っているかとか、周囲には知られたくないじゃないですか。そういったプライバシーというか、人権は当然守られるべきで、だからこそ、誰でも自分で給与明細を確認できたり、自分で年末調整の手続きができたりすべきなんです。

そのためにプロダクトの品質を担保することは、決して「やさしさ」ではなく当たり前のこと。SmartHRの社員には、我々は働く人たちのそういった当然の権利を守るために、技術を高めていこうと伝えています。

鈴木
誰もが使えるようにすることは当たり前のことで、決して特別なことや、「やさしさ」としてやっていることではないってことですね。

最近は、いろいろな場面でアクセシビリティというキーワードを耳にするようになったのですが、その背景とかトレンドみたいなものってあったりしますか?

桝田
そうですね。昨今よくMeetyなどのカジュアル面談でも、制作者の方などからアクセシビリティに関するご相談をいただくことが増えてきました。その背景には、Black Lives Matterや#MeeTooなど、差別をなくそうとする声が高まってきたことがあるのではないかと考えています。そういった社会問題がフィーチャーされてきたタイミングで、開発者や制作者も、デジタルプロダクトを作るという仕事の中で、差別に加担したくないっていう気持ちが強まって、アクセシビリティへの関心も高まってきた。社会の意識が少しずつ高まってきた時に、ちょうど手元に自分の仕事でできることがあったという感じだと思います。

あと特にアメリカでは、アクセシビリティが低いデジタルプロダクトやWebサイトが訴訟されるケースも増えてきていることも、背景にあるかもしれません。例えば、大手小売のウェブサイトが裁判で負けて賠償金を払ったり、ウェブサイトの改修を命じる判決が出ていたり。そういった訴訟リスクを考えて、アクセシビリティ向上を目指す企業も増えてきていると思います。

鈴木
特にアメリカはすごく進んでいる印象がありますよね。上場企業は、人的資本の開示が重要視されていて、例えば、女性役員の比率や従業員の人種の比率などを必ず開示する必要がある。そこに偏りがあると、株価が一気に落ちるみたいなことも結構あって。プロダクトだけでなく、社員に対してもアクセシビリティの考え方を持って、実行している企業も多い印象があります。

桝田
ちょうど先日、overflowもDEIポリシーを公開されてましたよね。

鈴木
そうですね。DEIポリシーを作った背景には、事業グロースのためには多様な視点が必要だと感じているという短期的な視点もあるのですが、中長期的に見た時に、HRサービスを提供する我々が、未来の人材組織のあり方を体現すべきだと考えているということもあります。

DEIは、どんな会社も必ず意識しなければいけない理念だと思いますし、我々はスタートアップだからこそ、最先端のことにトライしていくことを恐れてはいけないと思っています。まずは自分たちが一歩先の組織のあり方を体現して、そこでの経験をプロダクトに反映したり、お客さまに伝えたりしていきたい。そんな想いで、DEIポリシーを設定しました。

桝田
すごくいいタイミングですよね。SmartHRでも、「非合理をハックする」という言い方をしていますが、まずは自分たちが先陣を切って新しい働き方にチャレンジして、挑戦していく社会に変えていくということを目指しています。

overflowとは事業領域は全然被っていないのですが、同じHR業界で、同じように挑戦している仲間という感じがしますよね。実際、私も複業でoverflowのお手伝いをはじめて、働く時間も場所も雇用形態も、本当に多様な人たちが働いているなぁと日々感じています。

鈴木
特に開発チームは、海外のメンバーもいますしね。働く時間に関しても、非同期でどれだけ生産性を上げられるかを重要視しているので、多様な社員が時間や場所を問わずに働いてますね。

overflowのアクセシビリティは「正直、悪くない」

鈴木
では次に、現時点でのoverflowのアクセシビリティについて、どのように感じているかお聞きしたいです。

桝田
正直、悪くないなっていう状態ですね。実際にOffersを触らせてもらって、一つの画面の中で、よくできているなという部分と、ここはあまり何も考慮せずに作られたなという部分の差が結構あると感じています。もちろん、まだアクセシビリティ向上への取り組みを始める前で、統一した基準や技術レベルがあるわけではないので、当然のことなんですけどね。overflowには多様なメンバーがいるので、たまたま心得があったり、マークアップがよくできていたりする方が担当した部分は、良い品質になっているけれど、そうじゃない部分はそうじゃないという感じ。悪くはないけれど、再現性とか軸がないなということは感じています。

鈴木
ありがとうございます。ちなみに、アクセシビリティに関して、できている、できていないの判断軸やガイドラインのようなものはありますか?

桝田
日本の品質規格ではJIS、国際的なものだとWebの標準仕様を定めるW3Cが作ってるアクセシビリティのガイドラインがあります。障害当事者が実際に使ってみて、品質を測ることもあるのですが、私はJISや国際的なガイドラインをベースに判断しています。

アクセシビリティは、概念と技術を学ぶことから始めよう

鈴木
アクセシビリティの始め方についてもお伺いします。例えば、我々overflowのように、まだアクセシビリティに関して何も始めていないようなフェーズの企業やプロダクトで、最初にやるべきことや、やっていく順番について教えてください。

桝田
まずは概念を学んでいくことですね。アクセシビリティは、障害当事者に向けた特別な対応ではなく、プロダクトの品質であるということ。

例えば、聴覚に障害がある人向けの字幕は、イヤホンを忘れた人にとっても便利だったり、視力が弱い人向けのはっきりとした配色は、寝る前のコンタクトを外した状態でも見やすかったり。障害の有無に関わらず、誰もが使いやすいものを作ることが、アクセシビリティであるということを学んでいただくことがスタートだと考えています。それと並行して、品質基準や改善方法などの技術的な面を学んでいくことも大事ですね。アクセシビリティって、小さな使い勝手の改善の集積みたいなものなんです。

チームの中で一定の品質基準を持って、それに基づいて問題を発見して、改善して、デプロイする、この繰り返しなんですよね。そのスピードをどんどん速くしていくために、まずは品質や改善手法を学んで、その範囲を少しずつ広げていくというやり方が良いのではないかなと考えています。

鈴木
なるほど。まずは、HTMLのような本当にベースから学ぶという感じですかね?

桝田
そうですね。HTMLのマークアップとか、UIの視覚的な表現とか、基礎的な知識もやっぱり必要です。アクセシビリティの考え方と、それを実現するための技術的な部分の両方を同時に学ぶことがとても大事。そうじゃないと、やっぱり「やさしさ」が出てしまうんですよね。本当はちょっとした改善で済むことなのに、すごくリッチな実装にしてしまって、逆にコストがかかってしまったりすることもあるので、考え方と技術面を並行して学んでいく必要があると思います。

鈴木
ますぴーさんのお話を聞いていて、今の段階からアクセシビリティを考慮して、プロダクトを開発していくことは、プロダクトの品質向上のための投資なんだなと感じましたね。スタートアップ企業は、本当に限られたリソースしかないので、今はまだアクセシビリティを考慮するフェーズではないと感じてしまう人もいるかもしれない。

僕らのOffersでも、今すぐにアクセシビリティがプロダクトの中で実装できるわけではないとは思います。でも将来的に、誰もが使いやすいサービスを実現していくために、今の段階から、足元の設計や実装者の意識を変えていく必要がありますね。

桝田
まさにその通りですね。私も、overflowのプロダクトが今、アクセシビリティ的な課題に直面しているという認識ではありません。技術顧問といっても、アクセシビリティの顧問というよりは、いろいろと苦しみながらも定着しかけているUIをいい感じにする顧問みたいな感じですね(笑)アクセシビリティに限らず、ちょっとした使い勝手を改善しながら、ユーザーに対しての品質を上げていくようなイメージ。

overflowでは、プロダクト品質を考える上での1つの軸として、アクセシビリティを題材にしていくような仕事ができればいいなと思っています。そして、開発者が「ここはもっとこうした方がいいな」と思ってから、できるだけ早くそれをプロダクトに反映できるような仕組みづくり、組織づくりをしていきたいですね。

そのためにも、組織内で共通のプロダクトデザインへの考え方や、マインド設定が必要になってくる。アクセシビリティに関する共通の考え方や基準が浸透していれば、お伺い立てることなく、改善点に気づいたらすぐに実装できるようになります。そうやって、体制を作ることで結果的にアクセシビリティを改善していけるといいなと思っています。

鈴木
目指すべき姿の共通認識を持つということは、認知コストが下がるというメリットもあるんですね。社員が増えるほど「これってどうなんだっけ?」みたいなコミュニケーションが指数関数的に増えて、時間のロスになってしまいがちじゃないですか。でも、共通認識があればその時間を明らかに短縮できる。プロダクトの品質向上や顧客への提供価値向上に加えて、チームの生産性を上げるという点でも機能するのが面白いなと感じました。

桝田
共通認識や共通言語を作ることで、いろんなステークホルダー同士のコミュニケーションが円滑になるということは多いですね。私自身も、アクセシビリティに取り組んでいく中で、エンジニアやデザイナーの間に立ったり、プロダクトマネージャーやプロダクトオーナーと仕様の折衝をしたり、広報の方とも関わったりと、いろんな方々とコミュニケーションを取るので、コミュニケーションが円滑でない組織はやりづらいなとも感じています。

共通認識が浸透すれば、スムーズなコミュニケーションが可能になりますし、例えば採用の時にも、一緒に働きたい人のイメージが明確になったり、採用した人が早く成果を出せるようになったりしますね。

鈴木
アクセシビリティは、顧客に対して提供するものでもありながら、自分たちがその概念をインストールすることが重要なんですね。それが結果的に品質向上にも繋がって、ひいては事業価値の向上にも繋がってくる。アクセシビリティという概念が、そんな良い循環を作ってくれるんだなと感じました。

桝田
もしかしたら、アクセシビリティじゃなくてもいいのかもしれないですが、プロダクトから一気通貫して、みんながちょっとずつ携わるものとしてはすごく良い題材だなと思います。あとは、overflowのDEIポリシーにも繋がるのですが、組織として多様性をもっと尊重していこうとなっている時に、アクセシビリティを通じて、自分ではない他者の利用シーンに想いを馳せることで、多様性を尊重していくお手伝いになるのかなぁなんてことは思ったりしますね。

鈴木
アクセシビリティという概念は本当に奥が深いですね。アクセシビリティという共通認識でコミュニケーションが成り立って、それを実装するチームがあって、それを使うお客さまがいて。とても大きなテーマで、あらゆるところで関与してくるテーマですね。

桝田
今話したようなことは、アクセシビリティの副次的な要素だったのですが、overflowではむしろそっちをメインにお手伝いさせていただきたいと思っています。とてもチャレンジングなことではあるけれど、これがうまくいけば、もっとアクセシビリティに取り組む組織が増えて、日本の中でも盛り上がる事例になるのではないかなと、今はとてもワクワクしています。

鈴木
ぜひぜひ、今後もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

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