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【朝倉祐介さん×CEO鈴木】新しい働き方─人材循環型社会の到来─

グロースキャピタル「THE FUND」を運営するシニフィアンの朝倉 祐介さんとCEO鈴木(@yutosuzuki)の対談を前編・後編に分けてお送りします。

朝倉さんが運営されているVoicy「論語と算盤と私とボイシー」にお招きいただき、「新しい働き方」をテーマに1時間たっぷりとお話しさせていただきました。本記事はVoicyの内容に沿って作成した【前編】です。「働く」にまつわる新時代の到来についてディスカッションいたしました。

朝倉 祐介さん(@Jockey723
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て現職。株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。

新しい採用手法「複業転職」のニーズ

朝倉:
今回「新しい働き方」をテーマに、overflowの鈴木さんにお話を伺っていきます。

鈴木:
よろしくお願いします。overflowの鈴木です。

朝倉:
鈴木さんがどんなバックグラウンドの人なのか、overflowはどんな会社なのか、ご紹介いただいても良いでしょうか?

鈴木:
はい、ありがとうございます。私のバックグラウンドとしましては、2009年にサイバーエージェントという会社に入りまして、最初はインターネットマーケティングを中心に広告代理事業をしていました。そこからプロダクト開発サイドに移り、のちに新規事業開発を中心にしていました。

そのあとスタートアップに転職しまして、その会社がDeNAさんにM&Aされるという形でDeNAグループにジョインしました。子会社の代表をやりながら、本体のビジネスサイドの方も少し見させていただいた形です。ちょうど5年前くらいにoverflowを創業して今に至ります。

朝倉:
ありがとうございます。まあざっくり「インターネットの人」ってことですね(笑)。ざっくりすぎた?

鈴木:
そうですね(笑)。ありがたいことに色々経験させていただきました。

朝倉:
そんな中で満を辞してoverflowという会社を。いつからでしたっけ?

鈴木:
2017年の6月に。

朝倉:
そっか、じゃあもう今年で5年になるんだ。初めて名前を聞く方も多いと思うので、どんな事業をなさっているのかもぜひ教えてください。

鈴木:
ありがとうございます。今はプロダクト開発人材の複業転職プラットフォーム「Offers」を中心に展開しています。Offersに関しては、プロダクト開発人材を採用するプラットフォームになっていまして、エンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャー、データサイエンティストなどが登録してくれています。直近ですとご利用いただいている企業様が350社を超え、ユーザー様も1万5千人近くになっています。

特徴は「複業転職」を押し出しているところです。いわゆる「いきなり転職」ではなく、複業からタッチポイントを作り、一緒に働いていく中で最終的には正社員に切り替えていく。そんなプロセスを踏んだ採用チャネルとお考えいただくのがいいかなと思っています。

朝倉:
なるほど。会社としてはプロダクト開発がしたいというニーズがあって、そこをパートタイム的に手伝っていただく外部の方と出会える。場合によってはそこから採用もできるかな、というモチベーションもおありなわけですよね。

鈴木:
おっしゃる通りで、サービス開始当初は「本当に手が足りていないので、複業の方でもいいからエンジニア採用したいです」というニーズが多かったですね。しかし最近は、複業からタッチポイントを作って、最初から正社員になっていただくことを前提として使っていただくというケースが増えてきています。

朝倉:
実際に働くデザイナー、エンジニアの方のモチベーションはどうなんですか。ちょっと複業やってみようかな、というような考えで使われる方が多いのか。あるいは転職も見越して、まずはお互いお試し的にやってみようという方が多いのか。

鈴木:
比率で言うと、転職を見越した上での複業という形でコミュニケーションをとられるユーザーの方が増えてきています。複業している間も違う環境での学びがありますし、もちろん報酬もありますので、その期間は無駄にはなりません。会社のことを知るプロセスとして捉えている方も増えている気がします。

朝倉:
やっぱり相性の問題ありますもんね。

鈴木:
入ってすぐ離職というのが、企業側のペインとしてあったので。是正できる一つの方法論じゃないかと思っています。

朝倉:
会社にとっても働く人にとっても、「相性悪かった」ってなるのはいいことないですからね。ちなみに350社っておっしゃいましたけど、どういう会社さんが使っていらっしゃるんですか。

鈴木:
今はスタートアップや、SMBと言われるような中小企業の方に使っていただくケースが多いです。直近はエンタープライズ、聞いたら名前を知っているというような大きい会社さんも増えてきています。最初にスタートアップで使われたのは、やはり最初から正社員で採用することのリスクであるとか、見極める期間を慎重にとりたいとか、コスト面とか。直近では大きい会社さんで「DX推進室」などを作る会社も多いので、フレキシブルに人を調達していくというニーズが増えてきています。

朝倉:
なるほど。スタートアップやSMBのみならず、エンプラの方々も試してみるようなフェーズまで来ているということなんですね。

鈴木:
そうですね、コロナ後に急激に増えた印象はあります。


Offers立ち上げの背景と「人材循環型社会」

朝倉:
なぜこの事業を始めようとしたのか、そのあたり聞かせてもらえますか?

鈴木:
Offersに至るまでに、実は5つの事業を作っていました。例えば金融事業です。そこから方向転換を4〜5回しまして、Offersにたどり着きました。最初はマーケットインの側面が強かったのですが、Offersに関しては「自分たちにしかできないことってなんだろう」と、プロダクトアウトな思想を強めまして。我々のプロダクトはすべて複業メンバーだけでつくっていましたし、スタートアップの皆さんこそ複業を活用をしていくべきなんじゃないかと。これであれば自信を持って進んでいけるということで、Offersをつくり始めました。

朝倉:
実際、世の中も複業やリモートが当たり前みたいになっているし、なおさらプロセスより結果を見られることが多くなってきているのかなと。そうなると、そもそも正社員ってなんでしたっけ、みたいな根本的なところを問い直す局面も増えてきたんじゃないかと思っています。時代の変化とマッチした感じがしますよね。

鈴木:
おっしゃる通りで、「複業」は今流行り始めていて、マーケットは小さく、本当に始まったタイミングです。複業っていうトレンドが今ある人材業界をどう変えるかが大事ですね。

朝倉:
どう変わると思っているんですか?

鈴木:
先日noteに書いたんですけど、今Offersでは「人材循環型社会」というのを掲げていて、それを実現していきたいなと思っております。人材ビジネスができあがって60年くらい経っているんですけど、その変遷を一言でいうなら「働く」の主権が企業から個人へ移った60年だったと捉えています。私の父親世代は会社に属さなければいけなかったのですが、今は、会社が個人に来てもらわれなければ生きていけないというふうに主従関係が変わったかなと。

さらにここから労働人口が減っていくと、もっと個人が自由になったり、もっと個人を必要とする会社が増えたりして、一人の人間が社会でシェアされるような社会になるのではと思います。それを「人材循環型社会」という呼び方をしています。

朝倉:
なんでこういったことが起こっているんですか?

鈴木:
労働人口が減っているというのが非常に大きい問題ですね。我々は特にエンジニアに特化したプロダクトなので、今需要と供給のバランスが一番顕著にギャップが出ている領域なんです。採用という目線で見た時に、どんな採用手法をとってでもエンジニアに来てもらわなきゃ困るとなっていて、そこで能動的に動かれる企業さんが多い。

ユーザー側でみると、エンジニアやデザイナーは複業がしやすい職種なんですね。営業などは日中にアポイントメントが入るため、時間が決められてしまうケースが多い。一方でエンジニアは時間や場所を選ばないことが多く、複業しやすい環境があると思っています。

朝倉:
なるほど。こういった人の流動化的な側面、あるいは自由な働き方みたいな発想って決して新しいものじゃないと思うんですよ。たとえば「フリーター」って言葉は1980年代からあるらしくて、リクルートのフロムエーっていう雑誌が登場したのが大きかったらしいんですよね。

当時は好きな時に好きな仕事を細切れでやっていきながら、自分らしい自由な働き方をしていこうというのがある種肯定的に謳われていて。これが新しい働き方だ、とされていた時代が80年代後半とかにあったと。

一方で、フリーターって今でもいうけれども、人の価値判断次第ではあるものの、少しネガティブに捉えられる側面もあるわけじゃないですか。「フリーター」というよりは、「正規・非正規」みたいな分類で捉えられていて。2000年代前半の就職氷河期に、本当は正規社員になりたかったけど、なれなかった人が仕方なく就いている仕事っていうイメージがあったり。あるいは、働く内容というのもどちらかというと低付加価値とされるような仕事に限定されているというのがあって。「自由な働き方」ってもともと肯定的に打ち出したはずなのに、それがネガティブな印象というものと強く結びついてしまって今に至ってると思うんですよね。だから「夢は正社員になること」っていうような話を聞きます。

自由に働くとか、働き方をもっと流動的にとかは、そんなに古い話じゃないはずで。でも今この瞬間新しく聞こえるところとしては、それがより高付加価値な仕事に寄ってきたり、あるいは働く人の方によりパワーが集まりつつあるというところが、やっぱりちょっと新しい。昔から言われている「フリーター」みたいな概念とは少し違うのかなというふうに思ったりはしますよね。

鈴木:
はい。面白い歴史の流れだなと思っていて。自由という表現自体は一緒なんですけども、その自由を掴み取っている人の層が変わってるというか、中心となりうるマーケットが変わってきたかなっていう気はすごくしてます。80年代はまだまだインターネットが普及していないフェーズだったと思うんですけど、インターネット上で仕事が完結するっていう世界に移ってきたときに、そのトレンドを享受することで付加価値が上がった仕事が増えたなと。付加価値を出せる職種の方から順になってしまうかもしれないんですけれども、本当の自由な働き方っていうのが始まっていってるなっていう感覚はあります。


「インターン」を経て、リスクを減らした採用を

朝倉:
overflowが提供しているOffersを使う会社側のニーズってわかりやすいじゃないですか。良いエンジニア、良いデザイナーが欲しいんだと。Offersにはそういった人たちがたくさん集まってるらしいからぜひ使ってみようと。これはわかりやすいですよね、発想として。

一方で転職を前提にする人たちからすると、別にOffersじゃなくてもいろんな媒体であるわけじゃないですか。普通にエージェントの人と話したりするだとか、そういった求人サイトに登録したりだとか。あえてOffersっていう今までなかったサービスを使って、一旦複業してみようかっていうのって、どういう動機によるものですか。

鈴木:
ユーザーインタビューをすると、すぐに転職するのはリスクが高すぎて考えられないっていうフィードバックがあったりして。その要因として、外から見た会社と中から見た会社があまりにもギャップがあるっていう課題があるのかなと思います。

例えばエンジニアであれば、どういったアーキテクチャ、どういったチーム、どういったプロセスを経てソースコードがパブリッシュされていくか、そのプロセスの構築過程って、ものすごくカルチャーや思想が現れる。

それはやっぱり、一緒にやってみないとわからないことがたくさんあるんですよね。価値観や自分が求めている環境に対する時間的投資を失敗したくないっていうのは、大きいかなと思います。

朝倉:これっておそらく基本的には中途の方々を対象にしたサービスであるから、働く方もそういった問題意識ってあると思うんですけれども、多分一番歪みが大きいのは新卒採用ですよね。新卒の一括採用で、〇〇ナビみたいなところでワーッと求人募集出して、大量採用して、当然だけど会社は良いことしか言わないし、求職者だってもちろん自分を取り繕うじゃないですか。お互い化かし合いながら就職活動するっていうのが現状だと思うし、それをインターンとかOB訪問とかたくさんしたらわかるのかっていうと、多分そんなことはなくって。体験型のインターンなんかしても、多分わかることって何一つないと思うんですよね。全力でいいところを見せようとしますから、会社側は(笑)。

だからそういう意味で言うと、Offersがやっていることって通常新卒採用の人がやる本質的なインターンじゃないかと。本来の役割を果たしているように思いますよね。

鈴木:
はい。海外でも新卒だけではないですからね。インターンの定義は。なので本当の意味でのインターンに近いと思います。


雇用の創出=会社の価値ではない

朝倉:
あと同時に最近思ってることなんですけれども、こういった「人材循環型社会」が来ている背景として、労働人口の減少って話あったじゃないですか。めっちゃ思うのは会社の価値って、雇用創出することだっていうふうによく言われてますよね、雇用の創出って会社の価値なんだと。僕あれもう今嘘なんじゃないかなって気がしていて。

世の中全体から見たら人材って、そこに付加価値を提供しうる、GDPを押し上げるものすごいリソースなわけですよ。雇用の創出っていうのはそういった人たちをいっぱい採用することだけど、それってリソースを独り占めしてるっていうふうに聞こえる。あろうことか人材をうまく活用できていなくて、だけど雇用を守り続けてるんだからいいだろって言って。低い賃金で囲い続けてることって、これもう社会悪でしかないんじゃないかなと思ってて。もっと少ない人数でもっとインパクトあることをした会社の方が褒められてしかるべきじゃないかと。

とにかく人数を採用してるけど、たいして何もできてない会社って、むしろ非難されるべきだと思うんですよね。ちょっと極端な意見かもしれないけど、人をたくさん雇ってますってあんまり自慢できないことなんじゃないかな。むしろ「こんなに世の中から人をお預かりしてるのに、こんな結果しか出せてませんって恥ずかしいです」っていうことじゃないかなっていう気が僕はしてます。

鈴木:
たしかにその通りで、事業を始めたとき、一番最初はスタートアップにセグメントをしてたんですけど、とある方が「日本全体のGDPで考えたら、例えばトヨタさんとかそういった大企業の営業利益をひと桁もしくは1%変えるだけで、どれぐらいの利益が出ると思う?」と。それができるのがテクノロジーだしエンジニアだよねと。であるならば、そういった掛け算を使える、魔法を使えるエンジニアさんを、よりGDPに直結するような大きい会社で活用すべきじゃないかみたいな話になって。確かにそれもそうだなと思いました。

大きいサイズの会社にこそ、ある意味そういった掛け算、魔法をかけると、インパクトやGDPは出せると思うんです。でも、そもそもの事業体や、やっているビジネスモデルが変わってくると、スモールチームの方がより良いみたいなところはあるなと。色々なエンタープライズ企業様とお話をしていると、DX推進するのもそういった意図があったりするし、すごく私もしっくり来ます。

朝倉:
そうですよね。ちなみに今Offersで扱っているのが、エンジニア・デザイナー・PdM・データサイエンティストという事例ありましたけど、人材循環型社会にフィットしやすい人たちと、逆にここはあんまり相性良くないから旧来型の雇用慣行に従っておいた方がいいんじゃないか、という切り分けってあるんですか。それとも、世の中全体がもう人材循環型になっていくんだ、っていうことなんですか。

鈴木:
タイムラインとしては、職種や環境によって順番があるかなとは思っていまして。我々が特化しているプロダクト開発人材が、まずは進出すべき市場だと思ってやっています。その理由は、やっぱり我々マッチングプラットフォームなので、企業サイド・ユーザーサイドそれぞれが雇用の流動化で恩恵を受けやすいっていうふうに思ってます。

エンジニアの転職市場って1.3万人しかいないんですけど、複業潜在市場になると50万人もいらっしゃるんですよ。マーケットサイズが全然違う。リーチできる人数が全然違うので、そちら側でいかに振り向いてもらうかっていうことに、時間とか工数を上げた方がいいと気付き始めてる企業様が増えてきていると。

一方でユーザー様でいうと、複業しやすい環境であるとか、場所・時間を選ばない、あと誰と働くか選ばないというものがフィットしやすい環境だなっていうふうには思ってます。

朝倉:
なるほどね。そういう非同期的な仕事ができる人がより良いということですね。ありがとうございます。


後編は正規・非正規にとらわれない働き方をテーマに、overflowの実例をご紹介しながらお話しいたします。

▼今回のVoicyはこちら

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